「無口で恥ずかしがり屋ですから、どこまで話すか分かりませんが、まあ、会ってみてください。仕事には大変前向きに取り組んでおり、積極的ですから。」
大師の里の後藤恵一施設長がこう言って太鼓判を押すＴＹさんは、細身の体にマスクをつけて現れた。こっくりと頭を下げて、まずは職の遍歴を語ってくれた。
　「キャバクラとかカラオケボックスとかいろいろと…。沖縄では一年間住み込みでサトウキビ畑で働いたこともあります」。後藤施設長によると、潜水作業などの仕事にも携わっていたこともあるようだが、多くは語ってくれなかった。「昔のことはいいんです」という言葉から、今の生活が充実していることがうかがえた。
　介護の職についた理由をたずねてみると、「グループホームで働いている友達がいて、もしかして（介護関係の仕事を）お前に向いているかもと言われました。年も年だしそろそろ（仕事も）落ち着かないと、と。そこで今の仕事に…」
　そこまで話して語尾を濁したＴＹさん。その理由は－－
　「いろいろな仕事をして、きつさは経験していましたが、この仕事のきつさは今までの仕事とはまったく違っていました。まだ半年しかたっていないので、えらそうなことはいえませんが、人サマの生活、生き様にかかわっていくわけでしょう。初めの3日間は本当にきつくてなげだしそうでした。いま、やっと慣れた…」

　ＴＹさんの体験談1例――。
　「トイレで“支える”と“抱える”の違いですね。先輩は支える、私は抱えている。自分が不安だから抱えているのです。それじゃいけないと思っていながら、ついそうなる」。介護とは食事の介助や排せつの世話だけでなく、本人がいまもっている機能を使って生活するための援助行為でもある。少しでも機能が残っていれば、それをいかに低下させずに使えるようにするか。相手を思っての手助けがかえって老化をまねくことを反省しているのだ。
　「周囲の人たちが本当によく教えてくれます。自分に向いているのかもしれません。そういえば、いままで職場で”笑う”ということがなかったのに、いまは不思議と笑っている自分がいることに気がつきました」
　日勤、夜勤、早番、遅番とＴＹさんはいまやっとこのローテーションになじみ、こなせるようになった。栄養士、看護師、ケアマネージャーら周りのスタッフとも足並みそろえて働いている。後藤施設長は「仕事の習熟度もチームケアレベルにも達してきたので、安心して見守ることが出来ます」と話してくれた。