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Voice:就労応援事業所の紹介

第1回 小泉農園

「新しい風で僕もイチゴも新鮮さを味わう」小泉博司さん

2014/02/28

かわさき若者サポートステーション(以下「サポステ」)では、その活動の一環として、労働体験を行っています。実際に短時間の就労をすることで、仲間との作業や達成感等を経験し、若者の自信や意欲を回復するのに役立っています。

「わがままいちご」で知られる小泉農園は、サポステが開設した平成22年度から多くの若者を受け入れてきた、受け入れの先駆者です。農業体験の内容や心に残るできごとなど、小泉博司さんにお話を伺いました。

家族で営む小泉農園で「わがままいちご」を栽培

まずは小泉農園について教えてください。

うちは親子三代で営んでいます。僕は、なんとなく18代目かな。小作制度で村が農業をやっていたので、農地自体は昔からあったと思いますが、小泉農園としてやり始めたのは戦後の農地開放あたりからだと思います。祖父の代に野菜・米を中心に作って、渋谷にリヤカーで持って行ったのが始まりでした。
僕が生まれる少し前に父が農業を継いだときに、生活クラブ生活協同組合に野菜を出荷しようという話になり、そこから契約栽培になりました。漬物を作ってた時期もありましたが、やがてやめました。
その頃、日本でハーブ栽培がメジャーになり始める少し手前で、母が生協の仲間とハーブ加工できる工房を作ろうとしていました。参加したハーブセミナーの先生が、大きな面積でハーブの栽培ができる農家の参加を喜んでくださったと聞いています。ハーブの第一人者である広田せい子さんとの出会いもあり、ポプリやリースを作っていました。いずれ、仲間が子育てで忙しくなって抜け、家族経営「ハーブ工房ミント」となりました。
そのころ、僕はサラリーマンを辞めて、なにか独自のものをと考え、イチゴ栽培を始めました。それが「わがままいちご」です。
結婚を機に、パティシエだった妻がお菓子工房「シャン・ドゥ・フレーズ」を作って、いまの小泉農園となりました。

「わがままいちご」というのは変わった名前ですね。

授業の一環で小学生が来たときには、「畑に来て、わがままのかけらを見つけてごらん」というのが常套句です。「イチゴのわがまま、食べるわがまま、作るわがままが畑の中の散らばっているから、見つけて来てごらん」と言うと、子どもが畑に興味を持って飛び出していきます。
実は「放蕩息子が作ったわがまま三昧のイチゴ」と母のひらめきで出た名前です。品種はあきひめ、べにほっぺ等で、小泉農園のイチゴのブランド名が「わがままいちご」です。12月中旬から6月中旬くらいまで収穫できます。
2月までが直売をメインにした発送が多く、年間で1000件ほど発送しています。発送は遠方も多く、また送った先からも送って欲しいと来ることもあります。その発送が一段落してからイチゴ狩りを受け付けています。

小泉農園を卒業した若者は、作業の楽しさを体験

職業体験の受け入れを始めたきっかけは、どのようなことですか?

川崎市からお誘いを受けたのがきっかけです。最初に受け入れたのは近くに住む若者でした。サポステ受け入れ期間が終わって1週間ほど経った頃に、「直売所の前に変な人が座っている」と言われて来てみたらその子で、「人生に疲れたから相談に乗ってもらえませんか?」って。びっくりしましたねぇ。何を相談に乗ればいいのか。
その後、20~30代を中心に、たくさんの若者を受け入れてきました。

震災のときも、ちょうど来ていました。イチゴのベッド(イチゴが植えられている棚)は縦の衝撃には強いけど、横の衝撃には弱く、地震のときはすぐに外に出ろと言っています。震災のときはここに皆でいたので、混乱せずに対応できて事なきを得ました。
他の大人には心開かないのに、僕にだけは心を開いた若者もいました。彼は釣りが好きで、結局定職につくより、釣りをしながら生活をする道を選びました。大手企業の社長のお眼鏡にかなったり、釣り竿製造者と釣竿を開発したりと、頑張っていますよ。いまだに連絡をくれるし、魚を釣って持ってきてくれます。
今までに、この小泉農園を卒業した若者がいっぱいいますね。夏休みは高校生も来るので、全部で1クラスどころじゃない、1学年くらいなるかもしれません。
近くのスーパーに「わがままいちご」を出荷しているので、買い物に行ったときに小泉農園を懐かしく思い出してくれるかもしれませんね。

就労体験ではどのような仕事をしますか?

主にイチゴ畑の作業をしてもらっています。サポステからは、5名前後が2日間、13時から17時までの就労体験に来ますので、彼らのための仕事をためておくのです。
例えば、ベッドの白いビニールをホチキスで一つずつとめる、花をとる、草むしり、ゴミ捨てなど、そういう単純作業をしてもらいます。
就労が難しいとされる若者が来ますから、そういう単純作業をしてもらいながら、みんなで作業する楽しさを感じてもらいます。いろいろな世代の人とふれあって、周りの人と話すと楽しいよねってことがわかればいいと思っています。

みんなで作業をする機会が少ない子たちなので、貴重な体験ですよね。最初は意気消沈だった子が、みんなで作業をして元気になって帰っていきます。
作業をする中で、「力持ちだね」なんてパートの方が褒めたり励ましたりしてくれるんですね。できて当然の世の中で人に褒められることがなく、ここで褒められることが新鮮なんです。
例えば、白菜の収穫で重たいカゴをもう少し運べるか聞くと、例え時間が過ぎていても嫌な顔をせずに運んでくれますよ。

「小泉農園に来て、元気になって帰ってもらいたい」

受け入れにあたって、気をつけていることはありますか?

ないです。決まりやルールもない。マニュアルもありません。
これだけ広いビニールハウスですから、声が小さいと聞こえません。小さい声で返事したら「聞こえないよー」と言いますが、「大きな声を出す」というルールを作ることはしません。
サポステで来る子は、人とのコミュニケーションを求めているのかなと感じます。周りの人とのふれあいの中で育っていくのです。
川崎市の定年退職者を対象とした「達人倶楽部」に登録している人を中心に、農業をやりたいという人が40~50人来たことがあります。最終的には数名に絞られ、3名がいまも来ています。その人たちと、サポステの受入日を同じにする、強いて工夫をあげるとすればそのくらいです。
ただ、エンドユーザーに直結する作業は気を付けています。例えば、収穫した野菜を袋詰めする作業。袋詰めされたものは消費者の手元に届く商品なので、完璧じゃないといけません。小松菜の茎が1本折れていた、というようなことがあってはならないのです。野菜が惜しいということではありません。お客様の手元に直接届くものを扱う作業のときには万全の注意を払っています。
どんな作業でも、やらないで大変そうというのではなく、やってみて結果を見極めればいいと思っています。

サポステとは別に、新卒未就労者等の受け入れも行っているそうですね。

株式会社パソナから派遣されてくる若者も受け入れています(川崎市地域人材育成事業)。こちらは、正社員での就職を目指している若者が、毎日来ます。引きこもりがちだった子たちが、ここに来ると元気になり、笑顔が違うと言われますね。気分転換になればいいなと思っているんです。からだを使ったり、大きな声を出したり。そうしないと仕事にならないので、それがいいのだと思う。疲れちゃって会社に自信ないと言っていた人が、小泉農園に来て元気になっちゃう、みたいなところがあります。
サポステから来る若者は、仕事の楽しさを味わってもらえればいいと思いますが、パソナから来る若者は就職したいわけですから、厳しく教えています。オフィスで何十年も働くのでしょうから、仕事の効率なんかも教えています。元気のよさ、つきあいのよさ、手際のよさを考えること。考えずに仕事するのは一番ダメだよと、いつも言っています。

受け入れる側として、何か変化はありますか?

もともとラジオが友達みたいに、一人でこのハウスにいました。今はパソナの子が毎日来ます。人がくるというのは、いつもと違う風が吹くので、僕自身がリフレッシュできるし、ハウスで生きているイチゴも新鮮さを味わってくれるかなと思うので、そこにメリットを感じます。
いま、人を入れたいという畑が多いですよね。ボランティアを入れたいけど、対応の仕方、入れ方がわからない。これは農家だけじゃなく、JAや行政といっしょにで考えていかないといけないと思います。
農業がなくなることはないので、農家が収益をあげる努力をしなければいけないわけですが、野菜を作る努力で手一杯になってしまっているので、なにかいいしかけができればいいと思います。
農家の年代はバラバラで封建的な世界なので、コミュニケーションをとりづらい面があります。
僕らも市民を受け入れるようにしなければいけないのかもしれませんね。

取材当日は大雨で、ビニールハウス内も雨音が大きく響いていましたが、小泉さんの温かい声はとてもよく通り、日頃の若者とのコミュニケーションが見えるようでした。
いま農家が抱える問題に話が及ぶと、「うちは受け入れをすることでオープンになり、恵まれていると思います」と小泉さん。受け入れた若者が元気になることで、小泉農園にも新しい風が吹いているのかもしれませんね。
小泉農園
  住所/神奈川県川崎市宮前区平6-6-6
  TEL/080-6532-5306
  FAX/044-866-7352
  E-mail/info:@hkmint.net
  ホームページ/http://www.hkmint.net/

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