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かわさきマイスター活動レポート

「2010てくのまつり」 取材レポート

13人の「かわさきマイスター」が匠の技を披露

提供:川崎市
2月21日(日)、川崎市高津区溝の口の「てくのかわさき」(川崎市生活文化会館)で、「2010てくのまつり」が開催されました。同日は「大山街道フェスタ」「すくらむ21まつり」も同時開催され、地域の大きなお祭りが3つ重なり大勢の参加者で賑わいました。「てくのまつり」では、川崎市が「極めて優れた熟練の職人」として「かわさきマイスター」に認定した技術・技能者が、素晴らしい技を披露しました。また、川崎市技能職団体連絡協議会(技連協)からも4団体が参加し、体験教室や実演・販売などを行いました。会場でチャリティー販売された品物の売り上げは市へ寄付されます。当日参加された13人のマイスターの皆さんにお話をうかがいました。

表具師 若林 近男(わかばやし ちかお)マイスター

掛け軸・屏風の展示および封筒販売

古い掛け軸や屏風などの修復に優れた技量を発揮する若林さん。
古い掛け軸や屏風などの修復に優れた技量を発揮する若林さん。
表具とは日本古来の伝統文化でもある掛け軸、屏風、ふすまなどに、紙や布を糊で貼りつけ完成品に仕上げていく仕事です。若林近男さんは、その優れた表具の技能で掛け軸や屏風から壁面・天井のクロス張りまで幅広く手掛ける熟練表具師です。表具師の仕事の中でも特に、古い掛け軸や屏風などの修復は高度な技術が必要であり、絵が生きるように、生地選びから糊貼りなどに優れた技量が求められます。若林さんはこの分野でも熟練した技能を発揮し、正確で緻密な仕事に顧客から厚い信頼が寄せられています。
和紙で手づくりした封筒は来場者の人気を集めていました。
和紙で手づくりした封筒は来場者の人気を集めていました。
この日は掛け軸、ミニ屏風の展示と、イベント向けに表具で使う和紙を材料に手づくりした和封筒を販売していました。自分で製作しているこの和封筒は、かわさきマイスターとして参加するイベントですっかりおなじみになり、これをお目当てに訪れる人も少なくありません。ミニ屏風は、実際の屏風の仕組みがよく分かるように作られていました。屏風をたたんだり開いたり、両折りできる折りたたみ部分は丈夫な和紙で綴じられ(紙つがい)、金属製の蝶つがいはいっさい使われていません。ここにも自然の素材を大事に使う日本の伝統工芸の姿が見られます。若林さんの「これが経師の原点」という説明に、手に触れた人たちは「紙だけで何年も持つなんて不思議」と一様に感心していました。
表具の中でもふすまは、住宅事情の理由から、張り替えはあるものの新規の仕事は減ってきているそうです。和室のある住宅が少なくなったり、あったとしても工場で出来上がったふすまを使うことが多くなっているということです。逆にクロス張りは住宅の表具の90%以上を占め、需要は多いとのことです。

美容師 三上 峰緒(みかみ みねお)マイスター

夢のある編み込み (ウィッグ・水引等による実演・展示)

小笠原流礼法をルーツに、水引や飾り組み紐を使ったヘアスタイル「夢のある編み込み」を生み出した三上さん。
小笠原流礼法をルーツに、水引や飾り組み紐を使ったヘアスタイル「夢のある編み込み」を生み出した三上さん。
小笠原流礼法の包み結びをルーツに、水引や飾り組みひもを使ったユニークなヘアースタイル「夢のある編みこみ」を創案した三上峰緒さん。日本だけでなく中国をはじめとする海外でも知られています。この日も、一見、現代的なアフリカ風編みこみと日本伝統の意匠が見事にマッチしたウィッグなどの作品が展示され、若い女性をはじめ訪れた人の目を奪っていました。「以和為貴(平和)の風」「融通の風(平和の風)」「天覆地載」「涼風至」「花鳥風月」「花実相兼(下り藤)」「一粒万倍」など、展示された作品には漢字が並ぶテーマタイトルが付けられ一見難しそうですが、それぞれに意味が込められています。
子どもたちにも編み込みの魅力を伝えていました。
子どもたちにも編み込みの魅力を伝えていました。
「以和為貴」は、平和を象徴する塔に風が吹く様子を表現したファンタジックな髪型で、塔全体の編みこみはロープを使い、レインボーは水引で三つ編みに仕上げています。ヘア全体に今の季節を織り込み、水引で梅の花を慶弔を表す鮑結びであしらっています。「花鳥風月」は自然の風物を友とする生活を楽しむことを想像しながら、頭頂部からバックにかけて四つ編みで花、六つ編みで葉を表現しました。「花実相兼」は外面の美と内面の質を兼ね備えていることを表現し、基本の藤の花は四つ編み、中心に水引をあしらっています。これもファンタジックなヘアファッションです。
日本の伝統を伝える編み込みヘア作品の数々。写真右手前は、10本の水引を使い、慶弔、陰陽の色を組み合わせて作った「十編み花」。
日本の伝統を伝える編み込みヘア作品の数々。写真右手前は、10本の水引を使い、慶弔、陰陽の色を組み合わせて作った「十編み花」。
髪型とは別に、色と編む・結ぶの法則に親しむ「十編み花」作品も展示されていました。これは10本の水引を使い、慶弔、陰陽の色を組み合わせて作られています。飛鳥時代に聖徳太子が定めた冠位十二階の冠も正色と間色の法則に基づいて色を組み合わせていると言われるように、かつては色が重要な意味を持っていました。「十編み花」はそうした色の法則に親しみ、興味を持ってもらおうと作られたものです。三上さんは「こうしたイベントで編み込み作品を展示して、日本古来の慶弔を表すしきたりの伝統を伝えていきたい」と語っていました。

寝具製造 内海 正次(うつみ しょうじ)マイスター

椅子用ざぶとんの製作及び変型ざぶとんの製作体験、ミニざぶとんの綴じ仕上げ(チャリティ1枚100円)

ミニ座布団は子どもたちに人気でした。
ミニ座布団は子どもたちに人気でした。
布団作りの流派の一つ富田屋(とんだや)流を継承し、寝具製作1級技能士の資格を持つ内海正次さんは手づくりの綿布団の製造に従事しながら、ものづくり教室などでその魅力を伝える活動もしています。この日も、25分の1で作ったミニ婚礼布団のセットや「かいまき」(袖のついた着物状の綿入れ寝具)のミニチュアなど、子どもにもわかりやすい小物を多くを展示して、綿布団に関するさまざまなことを来場者に説明していました。人生の3分の1は寝て過ごすと言われます。その寝具を、内海さんは若いころに身につけた冨田屋流の技能で、顧客からの多様な注文に応じて作っています。特に優れた技能を要する「かいまき」の製作では、熟練の技が発揮されます。売り上げ中心の寝具店が増えるなかで、内海さんは手作りの綿布団の良さを伝える努力を惜しみません。
最初からきちんと1枚の布地で形を決め、綿を入れた変わり型座布団を紹介する内海さん。右が亀型で、突き出た部分は縫い付けたものではありません。左は梅型
最初からきちんと1枚の布地で形を決め、綿を入れた変わり型座布団を紹介する内海さん。右が亀型で、突き出た部分は縫い付けたものではありません。左は梅型
この日もうひとつの目玉は、他所ではあまり見られない変わり型座布団でした。亀型、円型、馬蹄型、ダイヤ型、梅花型、長座布団など、さまざま形をした座布団を1枚の布地から型取りして作ります。それぞれがユニークな形をしており、来場者の注目を浴びていました。内海さんによると「1枚の布地で最初に丸くきちんと形をこしらえて綿を入れていきますから、亀型のようなくびれ状の突起があるデザインは詰めるが結構難しいです。そこだけ別に綿入れして後から縫い付ければ楽ですが、それでは変形作りの面白みがありません」。綴じ仕上げした手作りミニ座布団も、小さい女の子たちに人気でした。こうしたイベントを機会に自分でも綿入れをやってみたいという人が増えてほしいというのが内海さんの願いでした。

和服洗い張り 小林 伸光 (こばやし のぶみつ)マイスター

和服の洗い張り「伸子張り」の実演

着物を蘇らせる「伸子張り」の伝統を守る小林さん。
着物を蘇らせる「伸子張り」の伝統を守る小林さん。
いまや伝統技術となってしまった着物の洗い張りは、かつては日本の家庭の庭先でよく見られた光景です。母から子へ、そしてまた、その子へと、自分たちの手で糸を解き、洗い、仕立て直して何代も受け継がれていくのがその家の歴史でした。それが着物本来の姿であり、良さでもあったのです。小林伸光さんは縮めんや紬(つむぎ)などの高級絹織物に欠かせない「伸子(しんし)張り」と言われる洗い張りの技を継承して、この伝統を守っています。伸子張りは着物をほどいて洗った後に、いったん縮んだ生地を着物の両端をひっぱった状態で、生地の裏を上にして下の表側に「伸子」と呼ばれる竹串を1本ずつさしながら糊をつけ全体をならしていく手法です。
来場者に伸子張りの奥義を説明する小林さん。
来場者に伸子張りの奥義を説明する小林さん。
この日の実演でも大勢の人たちが、小林さんの見事な手さばきに見入っていました。洗い張りのなかでも一番難しい工程が水洗いだそうです。何十年も水を吸ったことのない着物が水を吸うと生き返り潤いが出てきます。襟や袖口など汚れるところは大体決まっていて、その部分を重点的にブラシで洗っていきますが、その水洗いも難しく熟練の技が必要とされます。小林さんは、生地を再生させる際のポイントは「すすぎ」と強調していました。10年、20年着た和服を洗い張りで新品同様に生き返らせるには、生地を見極める技量も欠かせません。
色鮮やかな京染めの着物。小林さんの娘が30年ほど前に着ていたもので洗い張りで仕立て直したもの。後20年は着れるといいます。
色鮮やかな京染めの着物。小林さんの娘が30年ほど前に着ていたもので洗い張りで仕立て直したもの。後20年は着れるといいます。
この道40年以上という小林さんの目利きは鋭く、生地の状態を瞬時に判断します。「赤など生地に定着していない染めがあると、洗ったとたん、色が滲み出して大変なことになってしまいます。色止めしてあるかどうか、事前に見極めるのが大事です」。最盛期には市内に5、60軒ほどあった洗い張り屋も、今は3軒ほどになってしまったと言います。小林さんは、こうしたイベントを通じ、手仕事の良さ、伝統の技術を伝えていきたいと話していました。