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かわさきマイスター活動レポート

「かわさきマイスター匠展」1日目レポート

マイスター参加の最大級イベントがスタート!

提供:川崎市
川崎市認定の「かわさきマイスター」とは、ものづくりの極めて優れた技術・技能を持つ現役職人のこと。いわば、職人界のトップアスリートです。そんな匠たちの、日本そして世界に誇れる卓越した技に触れることができる貴重な機会が、マイスターが一堂に会して熟練技を実演、製品を展示する「かわさきマイスター匠展」です。マイスターが参加する中でも最大級のイベントで、毎年9月の第1週に開催されています。今年は9月1日(水)から9月3日(金)にかけて、川崎市多摩区登戸の多摩区総合庁舎1階アトリウムで開催され、3日間を通して沢山の市民で賑わいました。来場者は普段は目にすることのない匠たちの名人技に感嘆の声を上げながら、熱心に見入っていました。

■2日目、3日目の様子はこちらでご覧いただけます。
 マイスター匠展 2日目
 マイスター匠展 3日目

実演コーナー 6人のマイスターが技の共演

初日の9月1日(水)は、6人のマイスターが技能の一端を披露。その巧みさに引き込まれ、足を止めてじっくり見学する来場者の姿があちこちで見受けられました。

参加されたマイスター(認定年度、職種)は、浅水屋甫さん(平成16年度、広告看板製作)、内海正次さん(平成10年度、寝具技能士)、関戸秀美さん(平成13年度、神社寺院銅板屋根工事)、小林伸光さん(平成14年度、和服洗い張り)、若林近男さん(平成13年度、表具師)、榎本かつ子さん(平成21年度、美容師)です。

浅水屋 甫さん(広告看板製作)―手描き表札作り

デジタル化が進んだ看板製作の世界で、あらゆる書体を筆一本で描くことができる浅水屋さん。小さい看板から石油タンクの壁面まで、対象を選びません。この日は表札作りを実演しましたが、下書きなしで一気に描き上げる筆さばきは、さすがこの道60年の熟練技。仕上げまで20分とかからず、その見事な筆跡とともに、来場者を驚かせていました。
通常約7,000円の表札を、1,500円で販売。表札板には、目がつんで丈夫なヒバ材を使用しています。注文を受けると、物差しを使って板に目安のしるしをつけ、耐水性の黒色塗料で文字を描いていきます。ドライヤーで乾かし、ラッカースプレーで艶出しをして、再びドライヤーをかけたら完成。看板製作は書体に合わせていろいろな筆を使い分けますが、表札用はイタチの毛を使った高級品です。
美しいだけでなく、温もりがある手書き文字
美しいだけでなく、温もりがある手書き文字
表札は年数が経つと、日焼けして色が濃くなり、風格を増します。最近はお孫さんの初節句に名前を描いてもらうなど、表札以外の用途で購入していくお客さんも多いと聞きました。

内海 正次さん(寝具技能士)―変形座布団(亀型・梅型・ダイヤ型)の綴じ

「寝る方が元気になってほしい」と、手作り布団の寝心地を追求している内海さん。綴じがゆるまない富田屋(とんだや)流の継承者でもあり、この日は座布団で綴じの技術を披露していました。角を綴じる「角綴じ」はわたを逃がさないため。また、表裏各4ケ所に施すのは、房のついた「三つ又綴じ」。実は4つの綴じ目がありますが、中央の綴じ目は見えないように縫います。「飾り用だから、こだわらないとね」と、内海さん。きりりと端正な縫い目に、マイスターならではの技の冴えを感じます。
左から亀型・梅型・ダイヤ型の変形座布団。後列の紫色の座布団と布団は、川崎市の米寿のお祝い品です。<br>いつまでも最適な状態で使ってほしいと、内海さんの布団には綿の取り換え時期を示すタグが付いています
左から亀型・梅型・ダイヤ型の変形座布団。後列の紫色の座布団と布団は、川崎市の米寿のお祝い品です。
いつまでも最適な状態で使ってほしいと、内海さんの布団には綿の取り換え時期を示すタグが付いています
25分の1サイズのミニチュア掻巻き
25分の1サイズのミニチュア掻巻き
亀型・梅型・ダイヤ型の変形座布団、ミニチュア掻巻き(袖のついた寝具)を作れるのは、川崎市では内海さんだけ。変形座布団はわたを均一に入れるのが難しく、プロが教えを乞いにやってきます。亀型座布団の突起は付け足しではなく、胴と一続きに生地から型を切り抜いているわけですから、技術の高さに圧倒されます。わた入れという「目に見えない部分」がこの仕事の基本だと、内海さんはいいます。
角型座布団は1,000円と800円で販売され、2時間足らずで20枚以上が売れてしまいました。手仕事の素晴らしさは、来場者にも十分に伝わったようです。お姉さんの車椅子に合う厚みの座布団を探していたという女性は、「良いものが見つかりました」と喜んでいました。
可愛らしいミニチュアの婚礼組布団
可愛らしいミニチュアの婚礼組布団
最近は化繊を入れた既製品の布団が主流ですが、やはり、綿わたの方がずっと寝心地がよいそう。さらに、体型や年齢に合わせてわた入れを調節するという内海さんの布団は寝心地抜群。多くのファンに愛されています。

★内海さんのより詳しい情報はコチラ

■ふとんのうつみのホームページ
http://www9.ocn.ne.jp/~futon-u/

関戸 秀美さん(神社寺院銅板屋根工事)―鏨(たがね)を使ったシルバーリング、根付け製作体験

銅板を扱うには、金属を土台の形状に合わせて馴染ませていく「絞り」など、難しい技術が必要とされます。関戸さんは、そんな高等技術を保持する、日本でも数少ない銅板屋根職人の一人。神社仏閣や歴史的建造物の銅板葺きや鬼、垂木飾りなどを修理改修する匠です。これまで、赤坂迎賓館や鎌倉の鶴ケ岡八幡宮といった名建築の改修も手掛けてきました。金属板を鎚で叩いて金属工芸品を作る、「鎚起(ついき)」という技に優れています。
「荒し鎚(あらしづち)」でスプーンを叩いて模様をつけます
「荒し鎚(あらしづち)」でスプーンを叩いて模様をつけます
匠展では、金属の表面に模様をつける「定鏨(じょうたがね)」と「荒し鎚(あらしづち)」を使い、シルバーリング、銅の根付け(どちらも1,000円)、真鍮製のスプーン(2,000円)をその場で加工したり、来場者の製作を手伝いました。定鏨ひとつとっても先端の形状はいろいろで、組み合わせによって、花瓢箪やトンボなど様々な模様が生まれます。関戸さんはひらめいたときに、自分で鏨を加工するといいます。
鎚目がついた真鍮製のスプーン(上)と蓮蕾形の銀のペンダント(下)
鎚目がついた真鍮製のスプーン(上)と蓮蕾形の銀のペンダント(下)
研究熱心な関戸さん。1400年前にペルシアから伝来した装束「唐組垂飾」の鈴飾りを再現し、銀のペンダントに仕立てました。白洲正子が愛用していた模造品に刺激を受けたといいます。蓮の種を象った楕円形で、カーブに沿って鏨で打たれた毛筋ほどの極細線は、匠の技ならでは。繊細な曲線に、見惚れた来場者から溜息が漏れていました。

小林 伸光さん(和服洗い張り)―洗い張り「伸子(しんし)張り」

古くなった着物を解いて洗い、新品同様の色艶によみがえらせる洗い張り。着物の手入れには欠かせない伝統技法ですが、その技を伝える職人はめっきり少なくなりました。この道40年以上の小林さんは、布の状態を見極める鋭い目と豊富な経験を持ち、確かな仕事で全国のお客さんの注文に応えています。

「伸子」の両端についた針をひっかけて生地をのばし、本来は天日干しします
「伸子」の両端についた針をひっかけて生地をのばし、本来は天日干しします
そんな小林さんが継承するのが、洗い張りの工程のひとつである「伸子張り」の技法。両端に針がついた細い竹棒「伸子」を使い、洗っていったん縮んだ生地をのばしていきます。紬(つむぎ)など濡らしても縮まない生地に適した技法です。袷(あわせ)を解くと、「胴裏」、「裾まわし」、「表」の3つの生地に分かれますが、表は約12メートルもあり、使う伸子の数はなんと270本。今日は展示用の布を用い、来場者の目の前で両端に針がついた伸子を生地に一本ずつ刺していき、伝統技法の一端を披露しました。
洗い張りを経て見事に色艶がよみがえった生地
洗い張りを経て見事に色艶がよみがえった生地
「最後まで手抜きをしない、きれいな仕事をみてもらいたい」と小林さん。最近はお母様が着ていた古い着物を仕立て直して着たい、という方も多く、新しいお客さんが来店するようになりました。「どんな着物もお客様の大事な品物として扱います」と小林さんは話しています。

若林 近男さん(表具師)―手作り額の「裏打ち」

掛け軸や額を作ったり、襖や屏風を仕立てたり、表具師の仕事は多岐に渡ります。「近頃はクロス貼りの注文が多いよ」と若林さん。書道家が展覧会に出品するための作品の額作りを依頼され、この日は額作りの工程のうち、額に納める書の「裏打ち」を実演しました。裏打ちとは、霧吹きで濡らした紙(この場合は書)に、糊を均等にのばした裏打ち用の和紙を重ね、板に貼りつけてのばす技法。表具師は裏打ちができて初めて、一人前と呼ばれます。
「裏打ち」されてピンと張った書。一日おいて完全に平になったところで裏打ち紙をカットして額へ納めます
「裏打ち」されてピンと張った書。一日おいて完全に平になったところで裏打ち紙をカットして額へ納めます
「一番難しい技術だからこそ、見てもらいたい」と若林さん。書道に使われる紙は弱く、ねばらないので、しわにならないようにのばすのは至難の業です。しかし、若林さんは特別な道具はいっさい使わず、刷毛ひとつで手際良く作業を進めていきます。立ち止った来場者は、その鮮やかな刷毛さばきにうっとり。刷毛は手首のスナップをきかせ、腹でなでるように使うのが基本だそうです。
裏打ち用の和紙を丸包丁でカット
裏打ち用の和紙を丸包丁でカット
若林さんは、表具師の仕事の中でも最も難しい、古い掛け軸や屏風の修理・修復を得意とする最高峰の表具師です。匠展ではそんなマイスター手作りの和封筒も販売され、好評を博していました。

匠展初参加のマイスター

榎本かつ子さん(美容師)―着付けの実演

榎本さんはシャンプー、セット、メーク、着付けなど、すべてを一人でこなす美容のスペシャリストです。「美容師は床屋ではありません。最近は着付けやアップができない美容師がいますが、一通りできてこそ美容師なんです」といいます。初参加の匠展では、マネキンとモデルさんを使って「夜会巻き」と「編み込み」の髪型を披露したほか、オリジナルの帯結び、「木漏れ日結び」を実演しました。

「木漏れ日結び」は文庫結びのアレンジで、ドレープが特長。幾重にも重なった襞が美しく、洋装に通じるモダンな雰囲気があります。成人式など若い女性向け。お店では着付けの1週間前にお客さんに帯を持ってきてもらい、それに合わせて結び方を考えています。
ドレープがきれいな「木漏れ日結び」
ドレープがきれいな「木漏れ日結び」
今日の「抱き合わせ夜会巻き」は、左側にツイスト編みが入っているのがポイントです。「ヘアは何よりバランスが大切」と榎本さん。
抱き合わせ夜会巻き
抱き合わせ夜会巻き
ツイスト編み
ツイスト編み
午後に行われた帯結びの実演は大好評。流行を取り入れ、つけ襟と襦袢はビーズを縫い込んだものを使用し、取り囲んだ来場者から「かわいい!」との声が上がっていました。短時間での仕上げにも秀でた榎本さん。実演ではあっという間に、帯を結んでしまいました。ふだんでも着付けとヘアの所要時間は30分というから、驚かされます。
着付けは「楽に、苦しくなく、着崩れせずに」がモットー。随所に独自の工夫を凝らしています。モデルさんは「他の美容師さんだと腰紐で痣ができることがありますが、榎本先生の着付けはとても楽です」と話していました。
「仕事にこれでいいというとはありません」と自分に厳しい榎本さん。一方で、「仕事は楽しくなければだめ」とも語り、生き生きとした様子が印象的でした。時折飛び出す福島弁も魅力的な、朗らかなマイスターです。