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かわさきマイスター活動レポート

てくのかわさき技能フェスティバル2010

かわさきマイスター20人が熟練技を披露

提供:川崎市
生活に身近な職人技の素晴らしさを再認識してもらおうと、川崎市が開いている「てくのかわさき技能フェスティバル」。15回目のことしは9月26日(日)、高津市溝口の「てくのかわさき(川崎市生活文化会館)」で開催され、大勢の市民でにぎわいました。親子で楽しめるものづくり体験コーナーや、手作り品の即売会、「川崎ものづくりブランド」認定品の展示、チャリティ餅つきなど、盛りだくさんの内容。中でも、20人のかわさきマイスターが参加しての実演・展示は人気を集め、多くの来場者が足を止め、見事な職人技や展示品に見入っていました。


石渡 弘信 さん―― 手描友禅

手描友禅の特徴は、「糸目糊(いとめのり)」で下絵を隈どりし、その内側に色挿しをすること。糸目糊が防染の役割を果たすため、多彩で華麗な絵模様を描くことができます。石渡さんはこの友禅染めの技法を受け継ぎ、生地に独特の世界を描き出す名人。桃山時代から伝わる金箔押しの技法に優れるとともに、生地の特性を生かしながら微妙な濃淡をつけて染め上げ、日本の自然の美しさを深みのある色彩で見事に表現します。

この日は、糸目糊を引いたハンカチを用意し、色挿しの体験コーナーを設けました。宝槌や貝遊びなどの伝統的な意匠に加え、自動車や家、動物などかわいい絵柄もあり、大人から子どもまでが、筆を使って染付けを楽しみました。石渡さんは友達グループで参加したという子どもたちに、「色の統一がとれていて、バランスがいいね」、「筆はまっすぐ立てて塗るといいよ」などと優しく声をかけ、目を細めていました。本来は川の清水で糊を洗い落とし、仕上げをする手描友禅ですが、この日は水道水で糊を落とし、参加者は大喜びで記念の一枚を持ちかえりました。

ブータンの絹を用いたタペストリー。山や鳳凰、ボタンなど、チベットらしい柄を原色で染付け、手描き友禅の持つ日本のしなやかさと、チベット文化の華やかさを表現しました
ブータンの絹を用いたタペストリー。山や鳳凰、ボタンなど、チベットらしい柄を原色で染付け、手描き友禅の持つ日本のしなやかさと、チベット文化の華やかさを表現しました
手描友禅の完成までには20工程ほどあり、一つの工程で一人前になるのに10年はかかるといわれています。ところが、石渡さんはすべての工程をひとりでこなしています。京都では分業制が多く、需要が少なくて個人のあつらえが多い東京では、全工程をひとりで手掛ける職人が多いそうです。その分、独創性が求められます。自由な発想で作品を生み出す石渡さんは、「特定の師匠につかなかったことが、教えに縛られることがなくて、かえって良かったんでしょう」と笑います。少し前までは生地全体に金箔を施すなど、豪華な友禅が人気でしたが、今はお客さんが洗練されてきたとのことです。

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浅水屋 甫(はじめ) さん ――広告看板製作

コンピューター全盛の時代に、筆一本であらゆる書体を描くことができる浅水屋さん。実演でお馴染みの手書き表札作りは、熟練技で描かれた表札が手頃な価格で購入できるとあって、いつも大人気です。この日は朝一番に、まな板に文字を描いてほしいという注文が飛び込んできました。左官屋さんから、幟旗の代わりになる看板が欲しいとの依頼です。浅水屋さんはまな板の表裏を確かめ、字が滲まないように、表に「とのこ」を刷り込んでいきます。物差しを使って、目安の印をつけたら、準備完了。愛用のイタチの毛筆で、「左官」の江戸文字を黒々と描いていきました。

表札だけでなく、小さな看板から石油タンクの壁面、工場のシャッター、店舗の看板など、あらゆる対象に文字を描くことができる浅水屋さん。地上何十メートルの高所で、1文字2メートルもの大きな文字を描くこともあります。手描き文字の良さをたずねると、「毛先があるから、いいんだろうね。字をつくっていけるから」との返事でした。味わいのある文字は、コンピューターでは出せない温もりにあふれています。


石井 一夫― さん ――刃物研ぎ・鋸目立て

鋸を作る技術を持ち、鋸の刃を整えて切りやすくする「目立て」の第一人者である石井さん。替え刃式の鋸が普及しても、その腕を見込んで方々から仕事の依頼が舞い込んできます。目立てのほか、包丁、はさみなどの刃物研ぎ、合い鍵作りなどでも優れた技量を発揮。家庭用刃物だけでなく、大工、建具、調理、植木、洋服仕立など、各業界の職人からも依頼を受け、あらゆる刃物を新品同様に磨き上げて、見事な切れ味を蘇らせます。

真っ赤に錆びた包丁も、マイスターの熟練技にかかると、たちまち美しい輝きを取り戻していきます<br>
真っ赤に錆びた包丁も、マイスターの熟練技にかかると、たちまち美しい輝きを取り戻していきます
この機会とばかりに、来場者が次々とはさみや包丁を持ち込み、石井さんは朝から研ぎの注文に追われて大忙し。刃物研ぎ専用の水研機である程度まで錆びを落としてから、砥石で丁寧に磨き、納得のいくまでそれを繰り返します。「どう研いだらいいのかは、結局、お客さんが教えてくれるよ」と石井さん。例えば、年輩の方が使う包丁なら力を入れなくてもいいように薄く研ぎ、若い人なら、力があって刃が傷みやすいため、厚めに研ぎます。また、菜切り包丁や出刃庖丁など、力を入れて切る包丁は、2段刃が刃こぼれしないよう、厚めに研ぐそうです。包丁を使う人、使う用途を考えて、研ぎ方を工夫しているのです。

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若林 近男 さん ――表具師

若林さんは、掛け軸や屏風、襖や額の仕立てをする表具師です。最高峰の技術を持っていなければできない修理・修復においても、優れた技術を発揮。痛んだ表装を損傷せずに剥がし、見事に蘇らせていきます。近年は、クロス貼りの注文も請け負っているそうです。

この日は襖紙で作った封筒を販売。表具師の仕事で最も重要な技術は、糊を引いた和紙を裏貼りして紙を伸ばす「裏打ち」ですが、若林さんは「封筒作りも裏打ちと同じで、しわにならないことが肝心」といいます。厚手の紙を折って、寸分の誤差もなく正確に切り、封筒に仕上げるのは、やはり、マイスターの熟練技があってこそなのです。
畳一畳分の銀箔を押して仕上げた屏風を展示した若林さん。屏風の仕組みを知ってもらおうと、実物の手前にミニサイズの模型も展示しました。若林さん曰く、屏風の要は、合わせ目をつなぐ「羽根(紙丁番)」。開閉を繰り返しても切れないように、薄くて丈夫な木紙(きがみ)を、表裏2重に貼るそうです。羽根を貼るには、まず、屏風の縦の寸法を奇数で割り、2をかけて偶数にし、木紙をその寸法に切って左右に貼っていきます。その際、互い違いに貼ることで、360度回転させることができるとのこと。表具の複雑な技術に驚かされるばかりです。

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三上 峰緒 さん ――美容師

美容師界の第一人者である三上さん。黒人特有の編み込みスタイルに刺激を受け、水引や組みひもの編む・結ぶの技や慶弔の知識を取り入れて考案した「夢のある編み込み」で、髪型を芸術作品の域にまで高めたマイスターです。創作にあたっては、まず、四字熟語などでテーマを決め、それから形や色を考えていくのが流儀。「物事には必ず元があります」と話し、形や色が持つとされる意味を重視して作品に盛り込んでいきます。例えば、展示の「鳳凰子飛(ほうおうここにとぶ)」。華麗なだけでなく、冠(赤いとさか)は鮑結びで、先は老の波という、たいへんおめでたい意匠を表現しています。
おめでたい意匠を取り入れた「鳳凰子飛(ほうおうここにとぶ)」
おめでたい意匠を取り入れた「鳳凰子飛(ほうおうここにとぶ)」
結ぶ・編むの基本を知ってもらおうと、帯ひもを使って鮑結びを実演指導。これがすべての結びの基本だそうです。「鮑結びは縁の結びで、御縁結びや家庭円満、いろんな意味があるのよ」と三上さん。鮮やかな手並みで、来場者に手本を見せていました。鮑結びは輪が三回しだと三歳、五回しになると五歳、七回しになると七歳で、七五三のお祝いにふさわしい結びでもあるそうで、子どものしごきにつけてあげると、縁起がよいと伺いました。


内海 正次 さん ――寝具技能士

綴じがゆるまない富田屋流の技法の継承者でもあり、変形座布団や掻巻き(袖のついた寝具)を製作する技能など、卓越した腕前を持つ内海さん。この日はミニチュア座布団作りを通して、手作りの良さをPRしていました。「全体に気持ちを入れてやらないと、きちんとしたものは出来ません」と話すマイスターの仕事は、非常に緻密で繊細です。座布団の中央を綴じる場合、ブロード(平織り)生地は、生地の糸目に平行した十文字で綴じると、綴じ糸に引っ張られて生地が切れやすいため、×印に綴じるのが基本。生地によって綴じを使い分けます。また、座布団の角は生地が三重になるように縫い、頑丈にしているとのこと。わた入れに際しては、凹んでくることを想定し、中央に周辺の約4倍のわたを入れます。わた入れの後は、座布団を叩いてわたを縁に逃がす「ひきのし」が欠かせません。こうすると、使い心地がよいだけでなく、丈夫になると内海さんはいいます。

ベンツマークにも見える、飾りの「三つ又綴じ」。じつは四つの綴じがあり、真ん中は見えないように縫います。
ベンツマークにも見える、飾りの「三つ又綴じ」。じつは四つの綴じがあり、真ん中は見えないように縫います。
気配りが行き届いた仕事の細やかさは、布団作りも同様です。敷き布団は、綿わたを縦横交互に積み重ねて中央を厚くし、腰が沈みにくく寝返りしやすく仕立てますが、掛け布団は、平らか縁をやや厚く仕立てています。こうした布団の種類に加え、さらに、使う人の体型や年齢、生活環境などを考慮して、わたの量を微妙に調節していきます。使う人にとって最高の寝心地を追究した布団、それが内海さんの布団です。

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小林 伸光 さん ――和服洗い張り

古くなった着物を解いて洗い、新品同様の色艶に蘇らせる洗い張り。小林さんはその技法を受け継ぐ職人であり、洗い張りの工程のひとつである伝統技法「伸子張り(しんしばり)」を継承しています。「伸子」とは、両端に針がついた約40センチの細い竹棒のこと。洗っていったん縮んだ生地に伸子を刺し、竹の弾力で布をのばしていくのが、伸子張りの技法です。伸子を操る小林さんの手さばきと、ぴんと張られた布の美しさに、多くの来場者が足を止めて見入っていました。
生地の裏を上に、表を下にし、表に伸子を刺して天日干しします
生地の裏を上に、表を下にし、表に伸子を刺して天日干しします
小林さん曰く、洗い張りで肝心なのは水洗いの工程。後の作業が無駄にならないように出来る限り汚れを落としきるため、また、乾燥した生地に水を含ませることで、本来の艶や潤いを蘇らせるための作業です。水に潜らせると柄が崩れてしまうものがあるので、生地の見極めが非常に難しい、と小林さん。色が滲まないように、すばやく洗うことが必要だといいます。この時、刷毛を使いますが、仕上がりが均一にきれいになるように、力の入れ具合を加減して洗います。また、布は洗った先から桶に張った水に浸していきますが、浸しすぎてもよくないので、水から引き上げるタイミングには経験と勘が求められます。特に、加賀友禅や京友禅のような高級着物の生地は、色が滲まないように洗うのが難しいのだそうです。

伸子張りの後、水糊を刷毛で引いていきますが、「一方向に刷毛を引いていくと、布が光ってきます」と小林さん。「目に見えてというより、そうした最後の気遣い、気持ちが入っていると、よい仕上がりになります」といいます。仕上がりの良さが、次の仕立ての段階に生きてくるのです。