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かわさきマイスター活動レポート

平成22年度 かわさきマイスター認定式レポート

提供:川崎市
喜びをかみしめる表彰者たち
喜びをかみしめる表彰者たち
 川崎市は、技能者の最高峰として、極めて優れた匠の技によって市内産業の発展や市民の方々の生活を支えると共に、後継者や若手の指導にも熱心な現役の技術・技能者を、『かわさきマイスター』として認定しています。認定は、平成9年(1997年)度から始まり、平成21年度までに57名が認定されています。今年度は16名の応募があり、厳正な審議の結果、新たに5名が認定され、この晴れの日を迎えることとなりました。

 同日の午後2時より、川崎市国際交流センターにて、かわさきマイスター認定式・川崎市技能功労等表彰式が行われました。ここでは、かわさきマイスター認定式の模様をレポートします。

阿部市長から認定証を授与される製菓技能士の横溝春雄さん(右)
阿部市長から認定証を授与される製菓技能士の横溝春雄さん(右)
技能功労者等182名の表彰式に続き、今年度新たに認定された5名の『かわさきマイスター』の方々に、阿部孝夫川崎市長より、認定証・50万円の報奨金の目録、ガラス工芸品、真鍮製の菊皿(かわさきマイスター3名の共同製作による)などの記念品が授与されました。

神妙な面持ちで1人ひとり壇上に上がり、祝福ムード一色の会場から盛大な拍手が送られました。
 その後、市長の挨拶があり、5名のマイスターの方々に、「おめでとうございます。皆さん、この道一筋に力を注がれ、技術・技能を磨き、市民生活の向上に尽力されてこられました。これからも活躍され、後身への指導、後継者を育てていただきたい」との祝辞が述べられました。そして、代表者謝辞として、技能表彰受賞者代表に続き、マイスター代表として吉永惠一(クリーニング)さんが、「本日の名誉に報いる為にも、たゆまぬ努力をいたす所存です」との謝辞を述べ、市長と和やかに握手を交わしました。
阿部市長の祝辞
阿部市長の祝辞
マイスター代表として謝辞を述べる吉永惠一(クリーニング)さん
マイスター代表として謝辞を述べる吉永惠一(クリーニング)さん
最後に、市長とマイスター認定者・技能功労等表彰者及び同伴者で記念撮影が行われ、表彰式は無事終了しました。
5人のマイスター(前列左から出井明さん、伊藤直義さん、前列左4から鈴木忠夫さん、横溝春雄さん、吉永惠一さん)とその同伴者、阿部市長(前列左3)で記念撮影
5人のマイスター(前列左から出井明さん、伊藤直義さん、前列左4から鈴木忠夫さん、横溝春雄さん、吉永惠一さん)とその同伴者、阿部市長(前列左3)で記念撮影

以下、新たに認定された5名の方を、ご紹介します。

椅子製造業  出井(いでい)明さん

 出井明さんは、椅子にシートを張る椅子張り(型出し・縫製)技能に卓越した技術を保持しています。家庭用・オフィス用・航空機用・鉄道車両用と各分野の開発に携わり、あらゆる分野の椅子の生産に精通しています。
 1974年に現在の勤務先に入社し、名人と言われた先代社長の最後の弟子として椅子張りの修行をしました。20年ほど前から多品種少量生産が多くなり、張替えの仕事を続けてきましたが、昔の椅子の修理において、昔の技術を見ることにより、腕前はさらに上がってきました。この張替えの仕事で蓄積されたノウハウや知識を活かして、シンガポール航空の最新鋭機エアバスA380ビジネスクラスや新幹線N700系運転席などの椅子張りを担当しながら、名品といわれるクラシック椅子を卓越した技術により製作当初の姿に復刻しています。本年度、グッドデザイン賞を受賞した勤務先のオリジナルチェア「FUJI」・「OHASHI」にも素晴らしい技術が発揮されています。
 椅子張りの仕事で、腕の差が出るのは「一発勝負」の仕事だそうです。シートの布が届いて、仮張りをせずにそれを短期で仕上げます。出井さんの技術の特徴は、つくり方を微調整しながら生産体制を確立していく量産時代のものづくりを超えるところにあります。その真骨頂は、様々な椅子を試作・修理・再生してきた中で蓄積された経験を基に、その能力を逸品(一品)の生産に瞬時に最大限活かすところにあります。
 今日の日本が目指すべき多品種少量生産のものづくりを実践するマイスターです。

【連絡先】
株式会社キルト工芸 http://www.kilt.co.jp/
住所:川崎区大川町8-5
電話:333-1798 FAX:366-1257

○ご本人のコメント
「受賞して最高に嬉しいです。大きな仕事では新幹線の運転席やシンガポール航空のエアバスの椅子張りなど、若い人ではできない仕事をこなしてきたことが認められたのではないでしょうか。今後は後進の育成や社会貢献に取り組んでいきたいです」

機械設計・製作  伊藤 直義さん

 伊藤直義さんは分業化・高度化・高機能化されている工業製品をアイデアと機械、電気、化学の知識を駆使し、新製品を多数開発しています。
 工業高校を卒業後、大手電気メーカーに修飾して水力発電の水車の設計などに従事している中、伊藤さんの事業スタイルは、多くの企業をまわりながら、解決困難な機械・装置の課題を聞き出して、様々な分野の知識の蓄積に創造性を加えて対処します。客の難題から構想して、図面を引き、製法を考えて製作します。
 そこには、これまで、電気・レコード・印刷・化学・石油・下水道・教育関係など幅広い分野にて、数百種類の機械設計と製作を手がけてきた経験蓄積が活かされています。軽油の粘度測定装置、下水道に堰を作って自動開閉する装置。カエルの足の筋出力を測定する装置、横浜国立大学と共同開発した世界初のスパイラルモータ、シャボン玉発生装置、などなど。これまでに顧客に「出来る」と言って出来なかったものはなかったそうです。
 常に、挑戦的、創造的な分野の仕事に従事してきたことが、伊藤さんの技術・技能を高めてきました。あらゆる分野のユーザーのニーズを聞き、それに合った図面を引き、作り方を考え、完成させる能力は、単に仕事の繰り返しでは育ってきません。それには、伊藤さんが子供の頃からものづくりが大好きだったことに萌芽があります。
 ものづくりには何よりも勘が大事という、創造力豊かなマイスターです。

【連絡先】
有限会社 伊藤工業 http://www1.odn.ne.jp/~koujin/
住所:高津区野川3730-6
電話:766-5111 FAX:766-8391

○ご本人のコメント
「私は設計製作を担当していますが、他の技術者と協力して仕事をしているので、みなさんの代表でマイスターの認定をいただいたと思っています。原理原則を理解してそれを応用していくことがものづくりの楽しさであり、必要な機械や機能を自分で考えて実現していくことがものづくりの醍醐味です。これを機会に、小中学生を含めた若い人たちに機械とはどういうものかということに親しんでもらい、一緒に感激できるような活動をしていきたいです」

クリーニング  吉永 惠一さん

 吉永惠一さんは、クリーニング業務全般、特にクリーニングの基本とされるワイシャツの洗浄、手仕上げに卓越した技術を保持しています。
 1955年から大田区のクリーニング店で修業を始めました。当時は手仕事が中心で、洗いは釜で煮たり、脱水はロール式で行う時代でした。焼きゴテアイロンを使用できるまでに数年かかるなど、厳しい修業時代で手仕事の技を身につけました。
 1965年に現在地で独立してから原点を大事にして、地道に近隣を自転車で回って注文をとり、丁寧なクリーニングをする中で、その腕が評価されて多くの個人固定客をつかんできました。2005年度「全国ワイシャツ仕上げ競技大会」での優勝は、55年の経験を有する技能の高さを象徴するものです。近年、クリーニング業界は、機械化、自動化の流れが進み、手仕事とは遠い世界になりつつある中で、手の技による仕上がりの違いで勝負をして、多数の顧客の心をつかむことでその素晴らしさを証明しています。
 吉永さんがアイロンをかけると、あっという間にシワが全くよっていないワイシャツが仕上がります。アイロンは重さが5kgほどで、全身の体重をしっかり乗せてプレスしてアイロンがけをします。かなり腹筋や背筋を使う作業で、しっかりした体躯には長年の修業の重みが感じられます。
 手仕事の技で生きることの大切さを教えてくれるマイスターです。

【連絡先】
吉永クリーニング店
住所:川崎区小田2-7-5
電話:333-1782 FAX:333-1782

※吉永さんの「吉」は「土」の下に「口」

製菓技能士  横溝 春雄さん

 横溝春雄さんはウィーン菓子を中心として洋菓子・焼き菓子・コンフィの製作に卓越した技能を保持しています。
 高校卒業後、東京の洋菓子店に勤務してから、スイス、ドイツ、オーストリアなどで修業しました。28歳で帰国してシェフパティシエとして働いた後、1988年に現在地で独立しました。当時は区画整理直後で周囲に何もありませんでしたが、地域に根ざした洋菓子店を目指し、新百合ヶ丘郊外の住宅予定地を店舗として選びました。
 横溝さんの菓子づくりの基本姿勢は、本場で学んだ配合の基本は大事にしつつも、欧州向きの味を真似しようとしすぎずに、日本人の嗜好に合わせて独自の工夫を凝らすところにあります。例えば、リキュール・香料など複雑な組み合わせをそぎ落として、フルーツ本来の自然の香りを出すために、引き算の洋菓子作りを心がけています。また、素材の持つ味を如何に引き立たせるかを考えます。産地にもこだわり、前日取れたものを翌朝に送ってもらったり、実際に栽培場所へ行き、どのように作られているかをしっかり見ます。また、美味しい素材は極力、旬の素材を使うようにしています。このような努力に基づく技能や技術の積み重ねが、この郊外の店舗を多くのリピーターに支持される人気店へと成長させました。
 また、横溝さんは店員が責任を持ってサービスが出来る店つくりを心がけています。お客様が来店した瞬間を大事にして、しっかりした丁寧な接客を店員に指導しています。
 菓子づくりだけでなく、経営哲学を合わせ持ったマイスターです。

【連絡先】
有限会社リリエンベルグ http://www.lilienberg.jp/
住所:麻生区上麻生4-18-17
電話:966-7511 FAX:954-0115

○ご本人のコメント
「これまで障害児の自立支援や地域でのケーキ作り講習など、ボランティア活動を積極的に行ってきましたが、今後もこういった活動を続けていきたいと思っています。好きな仕事をしながら人に感謝されているという意識が持てることに、職人としての誇りを感じます。若いスタッフに仕事は楽しくやるんだよと言っていますが、それで地域に貢献できれば一番幸せなことですね。独立して22年というひとつの大きな節目でもあるので、今後も意識して後進の指導をしていきたいです」

パイプ曲げ加工  鈴木 忠夫さん

 鈴木忠夫さんはNC機(数値制御の工作機械)を駆使した多品種少量のパイプ曲げ加工を得意としています。
 高校卒業後、切削などの仕事に従事しましたが、1976年に別の工場に移ったのを機に「パイプ曲げ加工」に従事することになりました。この加工を始めた当初は半自動機による加工で、金属の伸び縮み、角度の狂い等を計測し修正する手間のかかる仕事でした。その後、半自動機からNC機による加工の時代となり、鈴木さんもNC機を駆使する技能を身につけていきました。NC機の高度化とともに求められる加工精度は厳しくなりましたが、勤務する会社がトラック、健機などの多品種少量品を手がけていたため、常に新しいタイプの曲げ加工が求められ、それに応えていくことで高い技術を身につけてきました。
 鈴木さんの技能の特徴は、素材の品質上のバラツキを見極めて加工ができるノウハウを備えていること、厚物よりも難しい薄物加工を、型の微調整、芯金などを駆使することで、求められる精度を出すという点です。特にパイプを曲げる際には、シワが出ないように、芯金を入れてスピードを調整しながら曲げ、しかも曲げた外側と内側の厚みの変化も計算して材料を選びます。また、パイプを10数箇所もまげて、正確な寸法精度を出します。長さ2メートルのパイプを何箇所も曲げても1ミリほどの違いにしかならず、こうすると最後に切り落として廃材となる材料の量が少なくなります。
 まさにエコな側面も合わせ持ったマイスターです。

【連絡先】
大省工業株式会社 http://www.taisho-k.co.jp/
住所:幸区小倉1732-16
電話:588-0361 FAX:588-9435

○ご本人のコメント
「とても大きな賞をいただき、これからが大変だと思いますが、がんばっていきたいです。仕事は勉強、経験になっていくものです。私も、長年この仕事を続けて自分自身の技術を身に付けてきたことが認められたのではないかと思います。今後は若い人を育てていくことが自分の使命です。これまでの経験を若い人たちにそのまま引き継いでいけるよう、若い人を大事にしながら、精一杯、自分の技術を教えていきたいです」