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かわさきマイスター活動レポート

かわさきマイスター訪問バスツアー開催

匠が匠の技を見学、ものづくりの情報交換も

提供:川崎市
川崎市が、極めて優れた技術や卓越した技能を発揮し市民生活を支えるものづくりの匠として認定した「かわさきマイスター」。その匠の技を駆使し、日々活躍している“ものづくりの現場”を巡る「第1回かわさきマイスター訪問ツアー」が、10月13日(木)に開催されました。
初めての開催となった今回は、午前10時にJR南武線武蔵小杉駅改札に集合し、バスで訪問先となる6人のマイスターが活躍する企業(4社)を1日かけて見学しました。

ツアー参加者は、同じ「かわさきマイスター」の称号を持つ9名のマイスターと、今回のツアー訪問先企業であり「かわさきマイスター」を2名輩出している株式会社クレールから社員の方2名が参加し、合計11名。

※訪問企業及び「かわさきマイスター」は以下の通り。

1.今野工業株式会社(川崎市高津区下野毛2-14-18)
 鍵屋 清作さん(金属ヘラ絞り・平成12年度認定)

2.角丸金属有限会社(川崎市川崎区大川町11-11)
 竹内 三郎さん(円筒研削技能士・平成17年度認定)

3.サンテック株式会社(川崎市川崎区大川町11-13)
 鈴木 貞吉さん(難切削特殊加工・平成18年度認定)
 野浦 惣一さん(ものづくり多能工・平成19年度認定)

4.株式会社クレール(川崎市川崎区藤崎3-14-2)
 大橋 明夫さん(プレス順送金型設計・平成11年度認定)
 平賀 正明さん(生産システムの設計、製作・平成20年度認定)

今野工業株式会社・川崎市高津区下野毛2-14-18

鍵屋 清作さん(金属ヘラ絞り・平成12年度認定)

最初の訪問先となった今野工業株式会社
最初の訪問先となった今野工業株式会社
まず最初に訪れたのは、平成12年度に金属ヘラ絞りの「かわさきマイスター」として認定された鍵屋清作さんが勤める、今野工業株式会社。同社は昭和42年に設立、金属ヘラ絞り加工を軸として、化学機械部品や自動車部品、舞台装置部品、厨房機器部品などを製作している企業です。

現地に到着すると、鍵屋さんは、同社・今野辰裕社長と共に笑顔でツアー参加者を出迎え、早速工場を案内してくださいました。

金属盤を回転させながら、ヘラ棒で押さえ力を加えることで徐々にお皿のように金属が変形し、円錐や球形になる“ヘラ絞り”
金属盤を回転させながら、ヘラ棒で押さえ力を加えることで徐々にお皿のように金属が変形し、円錐や球形になる“ヘラ絞り”
円形状にした金属盤を回転させながら“へら棒”で押さえて円錐や球形に加工する“金属ヘラ絞り”。パラボラアンテナのような大きな製品や、ロットが少なかったり設計が複雑な製品は機械で製造することは困難です。かわさきマイスター・鍵屋さんは、そんなクライアントの様々な要望に、熟練の経験と勘で“へら棒”の加圧具合や位置を決め、均一の厚さで図面通りに仕上げて応える卓越した腕を持つ匠です。
鍵屋さんが鉄板を丸くカットする実演披露に参加者らも興味津々
鍵屋さんが鉄板を丸くカットする実演披露に参加者らも興味津々
加工について説明する鍵屋さんと、その説明を熱心に聞く参加者の皆さん
加工について説明する鍵屋さんと、その説明を熱心に聞く参加者の皆さん
参加者は工場内を鍵屋さんの案内を受けながら順に見学。何十年も使い込み、作業がしやすいように改良された機械を間近で見たり、出来上がった製品を実際に手にとってみるなど“ものづくり”の職人さん達だからこそ気になるポイントをじっくりと見て回りました。

途中、出来上がった製品を見ていた参加者から「ステンレスの加工は多いのですか?」という質問がされると鍵屋さんは「昔はステンレスは堅くてヘラ絞りは出来ないとされてきたのですが、今は出来るようになりました。もちろん、簡単に絞れるものではありませんが、それだからこそ需要も伸びています」と答えるなど、その他の質問にもひとつ一つ丁寧に答えていました。
これぞ匠のヘラ絞り!!
これぞ匠のヘラ絞り!!
工場見学の最後には、鍵屋さんが“ヘラ絞り”の作業を披露。参加者らは息を呑んでその様子を集中して見守り、金属盤が見事に絞られ完成するのを見届けると「さすがっ!!」という感嘆の声が、工場内にあがりました。
「ヘラ絞りは本当に奥が深く、様々な要望にどう応えていくかを考えるのが楽しいし、自分が考えたことが上手くいくと感動します。この仕事を始めてから今年で50年になりますが、まだまだ面白いと感じています」(鍵屋さん)
「ヘラ絞りは本当に奥が深く、様々な要望にどう応えていくかを考えるのが楽しいし、自分が考えたことが上手くいくと感動します。この仕事を始めてから今年で50年になりますが、まだまだ面白いと感じています」(鍵屋さん)
見学後、工場2階の会議室で見学を終えての意見交換会が行われると「質問をした中で自分の仕事にヒントになることを教えていただけて本当によかった。良い勉強をさせてもらいました」「道具の工夫や作業の力加減など、自分の仕事と通じるところもあって、大変興味深く見学できた」「業種は全然違いますが、作業の奥深さや創意工夫に対する姿勢などに感動しました」「機械が身体になじんでいるように感じました」「簡単そうに作業をしているが、それはコツがわかっていればこそ。技術の高さの表れであり素晴らしいなと思いました」など、参加者らから様々な感想が寄せられました。

角丸金属有限会社・川崎市川崎区大川町11-11

竹内 三郎さん(円筒研削技能士・平成17年度認定)

2カ所目の訪問先となった角丸金属有限会社
2カ所目の訪問先となった角丸金属有限会社
お昼を挟んで次に訪れたのは、平成17年度にかわさきマイスターに認定された円筒研削技能士の竹内三郎さんが代表を務める角丸金属有限会社。大川町工業団地内に位置する同社は、スーパーコンピューターの基板に関連する精密金型部品や自動車部品製作に伴うゲージや工具を超硬合金やセラミック等の材料を加工し、製作している企業です。
円筒研削盤で公差±0.001mm以内に加工する技術を持っている竹内さんが手がける製品は、微細かつ精密なもの。ただこの日は、所要で竹内さんは不在だったため、同社工場長の箕輪佳伸さんが工場で作っている製品や、工場内で行っている作業について説明をしてくださいました。
参加者に製品の説明を行う箕輪工場長
参加者に製品の説明を行う箕輪工場長
製品を実際手にとってその微細な加工を確認
製品を実際手にとってその微細な加工を確認
箕輪工場長はまず、タングステンやコバルトなどの超硬合金等を材料に同社で製造している自動車部品製作に必要となる治具や、スーパーコンピューターで使われる基板を作るための治具について参加者らに説明を行いました。

例えば、スーパーコンピューターの基板部品に穴を開けるための工具として開発された超極細ピンは髪の毛ほどの細さで、そのピンを受ける台の穴も極小サイズ。その加工がどんなものになっているかは肉眼で細部まで見ることはできません。そこで箕輪工場長が拡大ルーペで見てみるように勧めると参加者らは興味深そうにルーペを覗き込み、その微細かつ精密な加工に驚きの声をあがりました。
長年使い込まれた機械を見学
長年使い込まれた機械を見学
製品の説明が一通り終わると、作業が行われている工場を見学。同社はベトナムにも工場を持っていますが、今回見学したこちらの工場ではより難易度の高い作業が行われていました。
若い社員達が丁寧に磨きあげていく様子を熱心に見学する参加者たち
若い社員達が丁寧に磨きあげていく様子を熱心に見学する参加者たち
参加者は、ものづくりをする匠達。金型の素材としては最も硬いと言われている超硬合金については既にご存知の方も多かったようで、それが淡々と加工されていく現場を熱心に見学している姿が印象的でした。
箕輪工場長が同社工場の看板を手がけた浅水屋さんに超硬合金の刃をプレゼント
箕輪工場長が同社工場の看板を手がけた浅水屋さんに超硬合金の刃をプレゼント
参加者として見学していた広告看板製作のマイスターである浅水屋甫さんは、以前、娘さんと一緒に同社工場の看板を手がけたそうで、そのことを知った箕輪工場長が見学後に、看板作りの道具として使っている工具の刃用に超硬合金の刃をプレゼント。「これ以上に硬いものはない超硬合金をまさか頂けるとは思ってもいませんでした。とっても良いものを頂きました」と、浅水屋さんもとても嬉しそうでした。

サンテック株式会社・川崎市川崎区大川町11-13

鈴木 貞吉さん(難切削特殊加工・平成18年度認定)

野浦 惣一さん(ものづくり多能工・平成19年度認定)

3カ所目の訪問先となったサンテック株式会社は株式会社日の出製作所と同敷地にあります
3カ所目の訪問先となったサンテック株式会社は株式会社日の出製作所と同敷地にあります
次に訪れたのは、平成18年度に難切削特殊加工の匠としてかわさきマイスターに認定された鈴木貞吉さんと、平成19年度にものづくり多能工のマイスターとして認定された野浦惣一さんの2名を輩出しているサンテック株式会社。前述の角丸金属有限会社のすぐ近く、同じ大川町工業団地内にあるため、徒歩で移動しました。
工場見学の前に会社説明が行われました
工場見学の前に会社説明が行われました
工場見学の前に、大川町工業団地内にある大川町産業会館で同社専務取締役の岩武志さんから、鈴木さんや野浦さんの紹介と会社説明が行われました。
会社の特徴等を説明する岩武志専務取締役
会社の特徴等を説明する岩武志専務取締役
岩専務取締役は、株式会社日の出製作所として昭和35年に創業して以来、自動車部品等の加工を手がけ、サンテック株式会社も設立され、今のスタイルになった同社の歩みをはじめ、硬度の高いものや粘り気のあるものといった難削材の加工を得意とする鈴木さんの技術が大手企業の信頼を得て、新規受注につながっていることや、治具の製作や機械の保守点検・修理のほか商品開発に力を注ぐ野浦さんの活躍を紹介したほか「当社は鈴木さんや野浦さんをはじめとしたベテランのほか若手社員も数多く、社員の平均年齢は30歳となっています。また、若い女性の現場職が多いことも当社の大きな特徴です。そんな企業姿勢がNHKのテレビ取材でも取り上げられ、先日全国に紹介されました」という同社の特徴も説明が行われました。

説明会ではこのほか、NHKでテレビ放送された番組のビデオ映像も行われました。高校卒業後、高知や福島から就職を機に同社の社員寮に移り住み、現場の作業に取り組む女性達の姿を追ったドキュメンタリーを観賞し、参加者は同社への理解を深めました。
工場内では女性社員の方々が活き活きと作業中
工場内では女性社員の方々が活き活きと作業中
工場見学では、ラインの流れを見学。若い女性社員が実際に機械を操作している姿を見て感心する参加者に、岩専務取締役が「実は女性社員と男性社員の制服も変えているんですよ。色やデザインを変えてかわいいものにしています」と説明をすると「制服を変えるだけで職場が華やかになりますね」「かわいいねぇ!」「似合ってますね」などと参加者から賛辞の声が飛びました。
野浦さんが開発したホチキス機をじっくり見学
野浦さんが開発したホチキス機をじっくり見学
その後、野浦さんが開発を手がけた缶つぶし機やホチキスを見学。「ロケットを作れる会社ではありませんが、ローテクを使って面白いものを作り出したい」と話す岩専務取締役の言葉通り、匠の技を駆使して作られた機械を参加者らは熱心に見学しました。
見学後、大川町産業会館内に戻り行われた意見交換会では「若い女性がしっかりと機械を動かしていて驚きました」「工場内がきれいに片付いていて、整然とした環境に整えられていて感心しました」「工場で働いている社員の方が皆さん笑顔で挨拶をしてくれることが素晴らしく、和やかな職場だなと感じました」「野浦さんの開発されたアイデア商品はどれも大変面白く、興味深く拝見しました」「市販機械の改造はとても参考になりました」など、工場内で感じた素朴な感想やマイスターならではの視点で見た感想などが上がりました。

株式会社クレール・川崎市川崎区藤崎3-14-2

大橋 明夫さん(プレス順送金型設計・平成11年度認定)

平賀 正明さん(生産システムの設計、製作・平成20年度認定)

ツアーのラストを飾る訪問先となった株式会社クレール(工場外観)
ツアーのラストを飾る訪問先となった株式会社クレール(工場外観)
最後に訪れたのは、複写機の各種部品や自動車のラジエーター部品などを手がける株式会社クレール。平成11年度にプレス順送金型設計のマイスターとして認定された大橋明夫さんと平成20年度に生産システムの設計、製作の匠として認定された平賀正明さんが務める企業です。

大橋さんと平賀さんは、今回のツアーにも参加し各企業を見学したほか、「様々なマイスターの皆さんとの交流を深めてほしい」という同社代表取締役社長の清水忠さんたっての希望で、技術開発グループ・マネージャー兼品質保証グループ・マネージャーの遠藤信行さんと、機械加工グループの菊池翔平さんも今回のツアーに参加しました。
参加者らに説明をする大橋さん
参加者らに説明をする大橋さん
参加者からの質問を受ける平賀さん
参加者からの質問を受ける平賀さん
3カ所の企業訪問を終え、改めてマイスターとして自社を紹介する側になった大橋さんと平賀さんのリードで工場見学が行われました。
最新マシンの仕事ぶりを熱心に見守る参加者
最新マシンの仕事ぶりを熱心に見守る参加者
工場には、昨年導入したばかりの最新マシンがあり、参加者らの注目を浴びました。見たこともない大きなマシンの中で、次から次へと加工が行われていく様子を目をキラキラ輝かせながら見学する参加者の方もいて、マイスターの皆さんは、本当に好奇心が旺盛で“ものづくり”が大好きなことが伝わってきました。
見学後に行われた意見交換会
見学後に行われた意見交換会
見学後、同社別室で行われた意見交換会では、大橋さんと平賀さんのほかに常務取締役の永野吉朝さんも同席。参加者からは機械のメンテナンスのタイミングや金型の寿命など、専門的な質問が出されました。これらの質問に対し大橋さんや平賀さんが「メンテナンスは基本、毎日行っています。こういう時はこういう風にすると長持ちするなどのコツを若い社員に教え込んだりするにもメンテナンスは重要ですね」「金型の寿命は、約5万パンチ打つと歯が丸くなってしまうので、研ぎなおします」など具体的に答えてくれました。また「手作業でする工程も多いのに、女性社員の方がとても正確に行っている姿を見て、とても指先が器用だなと感心しました」という感想については「当社の女性は男性社員と同様にプロのプライドを持って仕事に取り組んでくれています」と大橋さんがにこやかに答えるなど、和やかかつ活発な意見交換が行われました。

自身の技能・技術の精進には余念がないマイスター達ですが、自分以外のマイスターが日々作業をしている現場や技術を間近で見ることはなかなかありません。今回の訪問ツアーで、異なる業種や職種で活躍するマイスター達の仕事ぶりを初めて間近で見学した参加者達は、それぞれ向き合うものは違っても「ものづくり」に関わる匠達だからこそ理解できる技術・技能が持つ奥深さの理解を深めた一方で、現場で日々精進しているマイスターの姿を目の当たりにし「仕事に誇りを持って取り組んでいる姿を見て、自分ももっと勉強しなければという意欲が湧いてきました」と強く刺激を受けた方もいらっしゃるなど、感慨深い経験ができたとても貴重な機会となりました。