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かわさきマイスター紹介

プリント配線 落合 康孝(おちあい やすたか)さん

発想、創意工夫、試作、製品化など多方面に秀でた電子技術のマイスター

提供:川崎市
宇宙を観測する「すばる望遠鏡」向けの特殊基板を開発した落合さんは、特殊用途プリント配線基板の第一人者で日夜、新しい基板の開発と製造に情熱を燃やしています。高級乗用車に用いられる、多層で端子を内蔵させた多機能のジャンクションボックス。厚さ80μ(ミクロン)のフレキシブル基板への積層技術などを駆使した世界最小の電磁界プローブ。フィンと一体化したヒートシンク基板。さまざまな工法を駆使して作るパワー基板など、手がける製品は多岐にわたっています。製造されるものはいずれも量産が難しく、カスタム製品が中心で手作りのものが多いですが、いずれも量産を想定した上での「ものづくり」であるところに、その凄さがあります。
神奈川県海老名市生まれ。県立工業高校自動車課を中退後、20歳まで転職を繰り返し、トラック運転手などいろいろな職種を経験。最終的に基板の穴あけ加工をするNC加工会社に入社し10年間在職。そこで基板加工の技術・知識を蓄える。その後、基板製造会社を5社ほど回る中で技量を磨き、TSSにスカウトされて入社、現在に至る。プリント配線板1級製造技能士。1級電子回路営業士。
かわさきマイスター平成19年度認定。
相模原市在住。TSS製造本部 本部長。
これは、落合さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

落合さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

基板加工は技術の世界、腕があればどこからも声がかかります。
基板加工は技術の世界、腕があればどこからも声がかかります。
もともと、車のエンジニアになりたくて工業高校の自動車科に入学しましたが、1年ほどでやめてしまいました。しかし、そこにいたわずかの期間ですが機械加工を学んだことが、今の私の加工技術の基礎となったことは間違いありません。10代で色々な職業を経験する中で、NC加工という業種に触れ、『ものづくり』や『加工技術』の面白さを知ったことが、基板製造を継続できた理由です。
求人を見て飛び込んだNC加工会社でしたが、私の人生を運命づける出会いとなりました。
当時の基板業界は発展途上の時代であったことから、単純なひらめきが大きな技術革新へと繋がり、大きな満足感を与えてくれました。
プリント基板業界も技術の世界で、腕の良いエンジニアには世界中からオファーが舞い込んできます。業界内やユーザーを介して評判が広がり、知名度が上がってくると、優秀な技術者を探している国内企業から声がかかるようになります。私も複数の基板会社をヘッドハンティングによって転職していきました。
技術と感性だけで生きてきた職人ですが、まだまだ発展途上だと認識しています。

やっていて1番面白いと感じることは何ですか?

「すばる望遠鏡」に搭載される配線基板を手に、開発の苦労を語る落合さん。
「すばる望遠鏡」に搭載される配線基板を手に、開発の苦労を語る落合さん。
当社は先般、ハワイ島マウナケア山頂にある「すばる望遠鏡」の主焦点カメラユニットの入れ替えに伴う30数枚のカメラ基板ユニットを受注し、3月いっぱいで納品しましたが、これには当社でしかできない独自開発の配線基板技術が投入されています。空気を通すと光の乱反射で解像度が落ちるため、カメラユニットのケース内は真空になっています。そうすると基板の樹脂や材料から、いろいろなガスが発生します。そのため真空中でガスの出ない基板製作が最大のテーマでした。そこで当社は放熱板に厚さ2mmのアルミ板を使用、それを挟むガラス繊維の入っていない樹脂基板を表裏各4層張り付け、1ユニット計8層回路の高放熱基板を開発しました。アルミ板は熱を吸収、拡散し、無繊維の樹脂層にはフィラーを充填することで樹脂量を大幅に低減し、アウトガスを発生させずに熱の放出に優れた基板構成としました。また、独自の工夫で基板の片側に特殊なコネクターを取り付けたいというユーザーニーズもクリヤーしました。発注元・国立天文台の公開入札に対し、競合できるところはなく当社が落札しました。私たちの基板技術が認められた証です。いずれ天文台から研究成果の学会発表があり、当社の名前も公表される予定です。
この事例のように、私が扱う基板は開発商品であるため1点1点、テーマが異なるのが面白いところです。また、工場内は様々な工程に分かれ、各セクションの担当者は単一工程をこなせばいいのですが、私は開発トップという立場から、その基板の使用目的からユーザーの意向まで、全てを掌握し総合的な判断で『ものづくり』の全工程に携われるのが魅力です。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

最初に入った基板加工会社での10年間で、自身の技術と感性が大きく伸びたこと、それが大きく評価され実績に結びついたことが大きな支えでした。基板を始めて今年でちょうど28年になりますが、私の加工技術の原点です。当時は半導体ブームで給料も良かったし、他の道に行こうとは考えもしませんでした。そして次に、最初の会社で蓄積した私の技術を必要とする別の会社から声がかかり、そこでさらに技術を磨き、また別の会社にスカウトされる。こうした繰り返しで次々とスキルアップのチャンスに恵まれたのも、結果的に技能研鑽を続けられた大きな理由だと思います。長く続けられた底流には、ものづくりが好きで負けず嫌いという私の性分も幸いしていると思います。

苦労したことはありますか?

苦労をしたという記憶は、ほとんどありません。私の血液型はB型ですが、壁があっても壁と感じないのがB型の良いところでしょう。仮に壁にぶつかったとしても、真正面から乗り越えるだけが術ではありません。迂回してでも、穴を掘ってでも壁の向こう側に行くことが重要であり、壁を打破するためのスキルと感性を
常に磨き続ける事が職人に求められる最大の使命と考えています。
難しいテーマにぶつかった時は原点に戻る。そして目線を変え、考えを転換することで事態は必ず好転します。今がダメなら別の方法を考え、それもダメなら更なる方法で出口を絶対に見つけること。
私の職人人生の中でお客様から頼まれて出来なかったことはありません。高難易度の開発案件でも、お客様との打ち合わせで意向を聞き、製品の目的を把握していく中で、ほぼ90%は出口が見える状態にするのが私のやり方です。頭の中で作れる物は、私の手で必ず形に出来る自信があるからです。
そして常に「自分でやらなければならない」という信念を持っていないと、物事はうまく回らないものです。だから、私は部下にアドバイスはしますが、命令することは極力控えています。これは私の仕事だという使命感と責任の下に手が動いた製品は素晴らしいものが出来上がり、命令されて出来たものには良いものは多くありませんから…。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

「プリント配線基板は素材などで工程的に極めて厳しい制約が課せられ、競争も激しい業界です」。
「プリント配線基板は素材などで工程的に極めて厳しい制約が課せられ、競争も激しい業界です」。
基板といえば普通は樹脂加工板だけを想像しますが、私が今やっているのはその樹脂板にアルミや銅など金属板を積層、加工する技術です。それも一般的な金属加工では水や油を使えますが、プリント配線基板にはそうしたものは一切使えません。電子機器には水も油も天敵であり、工程的にも厳しい制約があります。潤滑剤を一切使わないドライ切削で、金属加工メーカーよりも綺麗に仕上げることは至難の業ですが、ドライ切削用の切削ツールまでも独自設計することでクリヤーしています。樹脂加工術や金属加工術だけではなく、関連する刃物や製造装置、工場設計から営業までも出来る事が私の強みだと考えます。
今後、プリント配線基板はハイブリッド車に使う大電流系やLED向け放熱基板、あるいは両者を一緒にした新たな基板ニーズの台頭、アジア市場への展開など、製品・マーケット両面で裾野が広がり競争も激化するでしょうが、一般的な基板から個別のニーズに応じた特殊基板まで、何でもできる当社の強みを持ってすれば、この仕事はもっと面白くなりますし、私が腕を振るうチャンスもさらに増えてくると思っています。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えてください

一つひとつ、課題を乗り越えることにものづくりの魅力を感じるそうです。
一つひとつ、課題を乗り越えることにものづくりの魅力を感じるそうです。
製品を完成した時の達成感とお客様に喜ばれること、まずこの2点ですね。あとは、仕事をスタートしてからの各ポイントで状況を見極め、乗り超えるべき問題があれば、それを詰めていくことです。食事中とかテレビを見ていても、仕事のことを考えるのが習性のようになっていて、よく家族から怒られますが、常に今携わっている製品のこと、仕事のことを考えるのが私のライフワークのようになってしまっています。『ものづくり』には必ず完成時の達成感があり、この達成感がものづくりの最大の魅力だと思います。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

自分が積み重ねてきた技術への勲章と受け止め、職人の名誉、ステータスだと感謝しています。機会があればいただいたマイスターの立場を利用して、若い人たちに技術やものづくりの大切さを伝えていきたいと思っています。私自身もそうであったように、中学や高校など10代の時に経験したことは将来きっと役に立つということを講演の場などで教えられたらいいなと思っています。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

基板をチェックする達人の手。
基板をチェックする達人の手。
TSS株式会社は開発主導型の特殊基板メーカーです。私が自由に動ける環境と、それを理解してくれる経営者がいることは、私や部下にとってとても幸せなことだと感じています。
こうした枠のない開発環境を生かし、後継者育成に取り組んでいます。現在、開発チームには5人のエンジニアがいますが、オールラウンドな基板スキルと分野別に秀でたスキルを併せ持つ面白いチームです。
私の後を任せられる後継者も育ってきており、第2のマイスター誕生を目指して技術の継承をしている段階です。私の若い頃は上司や先輩たちの背中を見て仕事を覚えろと教えられましたが、今は即戦力を求め、修業や育成の時間を会社が待てない時代になってきました。
安易にポイントだけを教えるのではなく、必ず理由付けまでする指導をすることで、技と理論を共に理解させるよう心がけています。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

電子顕微鏡で基板の穴などを検査、左のモニターを見ながらチェックします。
電子顕微鏡で基板の穴などを検査、左のモニターを見ながらチェックします。
まず人と違う感性を養うことが重要です。例えば丸いボールは前から見ればなるほど丸いが、後ろから見たらどうなんだろうというような発想です。絶えず「何で」「どうして」と考えることが大切です。今は、はみ出すことを良しとせず、そのはみ出た個性が矯正されるような時代ですが、他人と同じ事をやってる以上、同じものしか出来ません。凡人と達人の差は感性の違いが非常に大きく影響していると思います。
私の知人で60歳の和菓子職人がいますが、子供のような目線でものを捉え、そして形に反映させています。まさしく秀でた感性の賜物であり、達人の技がここにありました。
難しい事ですが、これからの若い方には、個性を磨き感性を養うことに期待したい。サラリーマン化する若者が多い中で、一人でも多くの職人を生み出すことが私の使命と考えます。
ものづくりは基本を変えずにアレンジしていけば、それがテクニックになります。今の子どもたちには、ものをつくる文化がないように思います。ゲームや携帯電話で違う感性は伸びるかもしれませんが、「手を動かして作る」というクリエイティブな部分が見られないのが残念です。

最後にこれからの活動について教えてください

マイスターの知名度をもっと上げるよう努力したいと思います。また、後進育成という面から、2人目のマイスター誕生へ向け、直属部下のエントリー準備を進めています。私自身の目標としては来年、「現代の名工」受章にチャレンジすることです。毎年2月に次年度の新しい受章候補者の推薦受け付けが始まりますが、表彰されるには2団体以上の推薦が必要なので、目下、関係する団体の支援を要請中です。

どうもありがとうございました。
落合さんはかつて暴走族だったそうです。10代は幾度も警察のお世話になり、いろいろな人から諭され教えられるうちに、さまざまなことを学んだと言います。人生最大の恩師は当時の刑事さん。
子どもの頃も人と違うことばかりをやって、よく怒られたとも。インタビューの中で「相手が真っ直ぐ行こうというなら、自分は横から行ってみようと。誇れるものと言えば、このアブノーマルな感性でしょうね」と話していましたが、そうした根っからの“不良魂”が反面教師となって、落合さんの今があるのかも知れません。
【問合せ先】  
TSS株式会社

■所在地   高津区坂戸3-2-1
■電話    044-299-6451
■FAX         044-299-6452
■営業時間  9:00~18:00
■休み    土・日
■HP          http://www.tssg.com
■e-mail      sales@tssg.com