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かわさきマイスター紹介

製缶士 石川 精三郎さん

タンクづくり60年、すべての工程こなす熟練技能者

提供:川崎市
石川さんは製缶技能士として、鉄、ステンレス、チタンなど様々な金属材料を使用し、複雑な形状のタンクなどを製作しています。それぞれの金属の材質を長年の経験と研究から熟知しており、溶接など周辺技能にも優れている熟練度の高い職人です。発電関係の付属機器など高度な製缶にも不可欠な職人です。
プロフィール
石川 精三郎さん

川崎市生まれ。昭和26年福嶋鉄工所入社。親方とも言える先輩製缶工の木下さんに師事し、金属板の形取りから成型加工、溶接、組み立てまで製缶工程の基礎を学ぶ。その後も技量を積み重ね、40年代後半に1級製缶士の国家資格取得。平成13年度かわさきマイスター認定。川崎区在住。株式会社福嶋鉄工所 ※引退。

石川さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

15歳で福嶋鉄工所に入社して最初に配属されたのが製缶の現場でした。福嶋鉄工所の前身は、明治元(1868)年に江戸愛宕山下(東京・港区)で刀剣・馬具などを扱う鍛治業として創業、その後川崎に移り、製缶などを中心とする近代鉄工所へ発展した長い歴史のある会社です。私は入社以来60年近く、主要事業である製缶部門の道をずっと歩んできました。子どもの頃から工作が好きでしたので、私にとってはぴったりの職業だったと思います。

やっていて1番面白いと感じることは何ですか?

工場内で組み立て中の大型タンク。実際に納品先の現場に据え付けられるまで慎重に作業が進みます。
工場内で組み立て中の大型タンク。実際に納品先の現場に据え付けられるまで慎重に作業が進みます。
何十年にもわたって製缶一筋にやってきましたので、以前自分が手がけた装置が納品先でまだ健在であるのを見ると感動します。数年ぶりかで再びご注文を頂いたメーカーに伺った時などに、かつて私が手がけたタンクなどを現場で見つけることがしばしばあってうれしいですね。職人冥利と言うか、一つの仕事を長いこと続けてきて「ああ、本当によかった」と思うと同時に、製缶士としての誇り、やりがいを覚えます。これもユーザーのために仕事をするという会社の創業精神を地道に守って、こつこつと仕事をこなしてきたからだと思います。

中でも印象に残っているのは、昭和50年ごろ初めて銅のタンクローリーを造った時ですね。当社はタンクの素材として鉄、ステンレス、チタンなど多様な金属を扱いますが、当時は銅の経験がなく、銅そのものの素材の勉強から始めました。銅は溶接など熱を加えると意外と柔らかくなる性質があるため、その特徴を詳しく知る必要があったのです。銅のタンクは特殊な薬品類の輸送などに使われていました。今は耐食性、耐熱性に優れたハステロイという合金がありますが、新しい素材に挑戦するのも製缶工としてのやりがいを感じます。当社が扱うタンク類は化学工業用の反応槽や貯槽、食品・医薬品用の培養槽・発酵槽、原子力発電用の付属タンク、水道用大径鋼管など、あらゆる産業分野にまたがっており、製缶工として多彩なタンクの製造に携われる面白さもあります。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

鉄やステンレスなど、タンクの素材となる金属への愛情がないと製缶はうまくいきません。
鉄やステンレスなど、タンクの素材となる金属への愛情がないと製缶はうまくいきません。
ものを作る職人は毎日毎日が勉強です。これでいいということはなく、もっといいものができないかと研究を怠りません。その積み重ねが技量のアップにつながっているのです。特に当社の製缶事業は受注による一品生産がメインで毎日作るものが違うため、仕事に対し日々新鮮な味わいを感じることができます。同時に次の仕事のステップを考えることで私は技能研鑽に努めることができました。これが天職だと思い、外の道に行こうと考えたことはありません。仮に他の会社に転職したとしても製缶工という今の職種を選んだでしょう。

私がモットーにしているのは「金属も生きている」ということで、愛情を持って金属に接することです。金属と言えば一般的には重いとか硬いというイメージですが、加工するにあたっては温度、曲げ方など、どのようにしたら希望通りの製缶ができるか、素材への愛情がないとできないものなのです。熱の加え方一つで素材を壊してしまうこともあります。鉄鋼をはじめ大方の金属は複数の元素で合成された合金ですから、その元になっている成分の性質・特質を知ることが大事で、構成されている一つひとつの素材への愛情がないと製缶はうまくできません。

苦労したことはありますか?

仕事をこなす作業上での苦労はそれほどありませんが、金属板を製缶するのにどうゆう形で裁断するか、事前の設計図面(展開図)作りには結構苦労します。我々は「品物の展開」と言っていますが、お客様の要望通りに製品を仕上げる、こうした前工程での緊張感はあります。特に発電設備に付随するタンクには厳しい条件がつき、それを100%以上にクリアしていくため厳格な作業プロセスが求められますので神経を使います。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

製缶一筋に60年のキャリアを誇る石川さん。
製缶一筋に60年のキャリアを誇る石川さん。
製缶の仕事はタンクの受注を受けてから「設計→(金属)板取り→切断→成型(プレス・ロール)加工→溶接→組み立て→検査」という工程を経て出荷されます。そして最終的に納品先現場での据付工事に立ち会います。もちろん稼動後のメンテナンス管理も重要な役割です。そうした製缶の全工程をこなせるのが私の技量です。いわゆる製缶士として呼ばれる技量に達するまでには20年、30年といった長い経験が必要です。今は加工、溶接などそれぞれ工程ごとに分業化し専門職みたいになっていますが、昔の製缶工はこのプロセスのすべてをこなしてきました。できなければ一人前の製缶工として扱われませんでした。一から金属板を叩いてタンクを作り上げるという手づくりそのもので、加工や作業に必要な道具まで作ったものです。相手は金属で図体も大きいですから生半可な体力では務まりません。若い頃、師匠や先輩にしごかれたことも、今思えばプラスになっていたのかも知れません。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えてください

納品を待つ小型のタンク。1品1品、ユーザーとのやり取りを通じて造り上げるものづくりの魅力があります。
納品を待つ小型のタンク。1品1品、ユーザーとのやり取りを通じて造り上げるものづくりの魅力があります。
自分が作ったものが現場に据え付けられて稼動し、実質的に能力を発揮した時、ものづくりの喜びを感じます。また最初に触れたように、かつて手がけたタンクが今も現役で元気に動いているのを見ると感激すると同時に、ものづくりというのは「こういうことなんだ」と、その魅力をあらためて感じます。その時、ユーザーのために本当の仕事ができたという達成感も湧き上がってきますね。これも大量生産ではなく、一品一品お客様とのやり取りを通じて造り上げるものづくりにこだわってきた結果だと思います。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

自分の技量が認められたことがうれしいですね。後輩を育成するにもマイスターの称号が大変役立ちました。ただ、イベントなどを通じ製缶産業、製缶の工程そのものを一般の人たちにアピールしていくのは、実質的には難しい面があるかもしれませんね。製品のミニチュアを作って展示するとか動画やパネルで紹介するとかの方法はありますが…。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

製缶には溶接の作業が欠かせません。
製缶には溶接の作業が欠かせません。
入社後3カ月間実施する新人研修の教育係をしたり、国家試験受験のための講師を務めました。また福嶋鉄工所は毎年夏、工業高校からのインターンシップを受け入れていますが、その講師を務めたこともあります。その際、付き添いで来られた先生に教科書に載っていないような実学を教えこともあります。高校生には製缶工程の一通りを教えるのですが、指導して感じたのは、今の生徒たちは全体の流れを掌握するより溶接部分の仕事に関心が集中しているということでした。
溶接は覚えやすいし早く戦力になれる面はありますが、本来の製缶工と呼ばれるには、タンクの設計から始まって金属加工、溶接、仕上げまで、全体の工程を覚えるのが基本なんです。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

「手に職を付ける」と昔からよく言われますが、ものづくりをする人間にとって、これは当たり前のことです。ただ、一口に技術を身に付けると言いますが、簡単なことではありません。昔は職人の世界に入って技術を覚えようとしても親方や先輩にしごかれるばかりで、教えてはくれませんでした。盗むしかなかったのです。いずれは先輩を見透かしてやるとがんばるしかなかった。ところが今の時代は、逆にしっかりと教え込んで早く戦力にしたいという風潮が強く、徒弟制度的な職場環境はダメだというのが一般的な考えです。技能を磨くのにどちらがいいのかわかりませんが、どんな職種にしろ、技術を持つことは自分のためであって、自分自身の看板にもなるということだけは、はっきりと言えるのではないでしょうか。

最後にこれからの活動について教えてください

健康第一でやっていきたいです。またこれまで得た製缶工としての技術や知識を機会があれば、もっといろいろな機会をとらえて若い人たちに伝えていきたいですね。幸い会社内では、これまでアドバイスしてきた後輩たちが今は職場の中心となってやっていますので安心しています。

どうもありがとうございました。
石川さんは半世紀以上にわたって、受注から製造、納品まで福嶋鉄工所の製缶一貫生産体制の要となってきました。明治の創業から現在に至るまでの同社の長い歴史と照らし合わせて見ると、鉄工所の近代化と職種の分業化・専門化が進んだ中で、石川さんの存在は製缶の全工程をこなす最後のプロフェッショナルと言えそうです。
問合せ先】  
株式会社福嶋鉄工所


■所在地   川崎区港町10-18
■電話    044-244-5111
■FAX     044-211-3685
■営業時間  8:00~17:00
■休み    土・日・祝

※石川さんは引退