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第13回 ベクトル株式会社 小山久枝社長に聞く

スタイリッシュな介護用品を!

2013/05/21

みなさんは「移乗用ボード」をご存知ですか?
車椅子からベッドへ抱きかかえての移乗が、介護する人にもされる人にも負担となっている。「介護する人はその重労働が腰痛などの原因になり、介護される人には抱きかかえられる不快感、不安感がある」というのです。
そこで、その両者の負担を解決するのが移乗用ボードと呼ばれる「らくらくボード」です。

今回は、川崎市の福祉製品川崎基準「KIS」としても認定されているこの商品を開発した、ベクトル株式会社の小山久枝(こやまひさえ)社長にお話しを伺いました。

創業から3年ということですが、この「らくらくボード」のために会社を始められたのですか。

実は、今一緒に仕事をしている中学時代の同級生でもある矢崎が「喜んでもらえる。きっと売れる!」っていうから、始めたんです(笑)。
50歳を過ぎた彼(矢崎氏)が介護施設で働き始め、3日目で肩が上がらないほど痛くなってしまったんです。男性にとっても介護は重労働なんですね。その時、施設の片隅にあった、移乗用ボードを見つけて使ってみたのですが、滑りが悪くて使えない……。
そこで、元大手自動車メーカーのモデラーだった矢崎の“ものづくりの血”が騒いだんです。「自分ならもっといいもの(移乗用ボード)が作れる」「世の中に役立つものが出来る」って。

そこで、彼の仕事仲間で、カーオブザイヤーを受賞した経験があるカーデザイナーの大熊を誘って3人で移乗用ボードの開発を始めたんです。そして、「販売するためには会社がなくては」ということで、会社を作りました。

開発は大変だったのではないでしょうか。

矢崎は介護の現場に4年いました。やはり現場を知らないと問題点やアイデアは出て来ませんから、彼の経験がとても役に立っていると思います。そして自動車のモデラーだった経験からも「(自動車にも使われている)FRPという素材を使えば、絶対に滑りのいい物、使いやすい物が出来る」という確信もあったようです。介護の場だけでなく「施設に入らずに一人暮らしを続けたい」という人が自力移乗するための道具としても考えました。
それから、介護用品って「かっこいい!」「スタイリッシュ!」って思えるものが少ないですよね。自分たちの老後をかっこ良くするためには、スタイリッシュな介護用品を創らなくちゃ!という思いも強かったので、デザインにもこだわりました。
……「らくらくボード」は一見介護用品とは思えない、若者の部屋に置いてあっても違和感のないデザインになっている。使用する方の状態や用途に合わせて形が3種類5タイプ、デザインは無限。施設や病院で使用する場合は、施設名を入れることもできるし、自宅で使用するなら、ペットなどの写真をデザインすることも出来る。

「らくらくボード」の評判はいかがですか。

使っていただくと好評なのですが、思った以上に売れないんです。
福祉施設では「問屋を通さないと」と言われ、問屋では「こんなの売れないよ」って。日本では、道具を使って介護することへの抵抗がまだまだあるようです。「人の手で出来る事は、手でやる」「お金をかけてまで、道具を買わない」ということなのでしょうか。

「人の手で温かい介護を」という声をよく聞きます。その一方、展示会などで若い介護スタッフが「らくらくボード」の周りにたくさん集まってくれます。そして、手にとって「かっこいい!使いたい」と言ってくれるんですが、なかなか普及していきません。1年経って「やっと許可が出たので注文します」と連絡をいただいたりもするんですよ。

それでも、介護保険のポイントでレンタルできる「福祉用具貸与適応商品」に選んで頂きました。
最近は、東名高速の足柄SAで、障害者用の休憩室に「らくらくボード」を採用してくださいました。それから、少しずつですが、個人の方からもオーダーが来るようになりました。ゆっくりですが、評判や口コミで広がってきているとは思います。

他にも、ホームページにはいろいろな製品が紹介されていますね。

いろんなご縁で声をかけていただいて、介護用見守りロボットのデザインや製作、車のデザインもしています。
私が「高齢者と腕を組んでエスコートするロボットがいたらいいわね」と、下手な絵を描くと、デザイナーの大熊がりっぱなデザイン画にしてくれて、矢崎がそれを形にしてくれるんです。
3人だけの会社なので、「こんなのどうかしら」「いいね、やってみよう」って、話しが進むので速いですよ。自分のアイデアが形になるのは、とてもおもしろいですし、ものづくりの醍醐味でもありますね。

ただ、ものづくりってとてもお金がかかるんです。製品が売れないとお金は入ってこない。それに、技術者って自分の技術に溺れるっていうか、「本当に良いもの、一生使えるもの」を目指してとことん追究するんですね。消費者にとっては素晴らしいことなんですが、開発費や材料費がどんどん上がっていく……(笑)。2人に厳しく意見することもしばしばです。
……2人のものづくりへの技術とこだわりがあり、それに小山社長の女性の感性と厳しい意見が合わさって、とてもバランスよく成り立っているように感じられました。

3人でお仕事をしていく上でのモットーを教えてください。

会社としてプロダクトを生み出すには、「人の役に立つこと」「一流であること、一流を目指すこと」「お互い(3人)を尊重し合うこと」と、会社を始めた頃からよく言っています。
ものづくりって面白いんです。で、どんどんのめり込んでいってしまう。だから、自己満足にならないように、3人できちんと検証しています。

もうひとつは「いろんな仕事をやる!」。
ものづくりとかデザインって入り込んでしまうと周りが見えなくなったり、行き詰まったり、感覚が古いままで止まってしまったりすると思うんです。だから「介護用品のデザイン」だけではなく、2人の得意とする車も、ご縁があればロボットも、なんでもやる。スケールスポーツと言って、5分の1サイズのラジコンカーを自分でデザインすることから始めて、レースまで楽しんじゃおうというワークショップもやっています。大学で学生にも教えています。次世代を担う技術者に、ものづくりを一貫して伝えていきたいと考えています。

こうして、いろんなことをやるから、新しいものが創れるのだと思っています。
もちろん2人の技術があるから出来る事です。
上海モーターショーにて。左から矢崎氏、小山社長、大熊氏。
上海モーターショーにて。左から矢崎氏、小山社長、大熊氏。

今後はどのようなことをしたいとお考えですか。

ここまで色んな方に支えられて来ましたので、早く「おかげ様で……」という報告が出来るようになりたいです。
ものづくりは楽しいですが、正直いうと大変な時もあります。これまで色んなご縁で助けてくれた人たちに、早く良い報告が出来るように、成功するまで続けたいと思っています。
……小山社長は「いつまでも楽しみながら、かっこよく」と常に好奇心たっぷりでチャーミングにお話しくださいました。そして社長を支える技術者、矢崎氏、大熊氏とのバランスの良い三角関係が、世の中に新しい風を吹き込んでいるように感じました。
スタイリッシュな介護用品「らくらくボード」が施設や病院などで当たり前に使用される日が来ることを楽しみにしています。
VECTOR(ベクトル)株式会社
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