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ZOOM UP:かわさきの元気企業

第15回 株式会社和興計測 五十嵐崇社長に聞く

100億企業より、100年企業に!

2013/07/24

株式会社和興計測のホームページには、液面計、フロートスイッチなど、一般にはなかなか馴染みのない製品が並んでいます。こういった制御機器は電力会社、上下水道といった公共設備や、石油精製、鉄鋼といった産業において(普段の生活では目に付かないところで)役立っているのだそうです。

私たちの暮らしを守る、密かな功労者を作っている会社のトップは、川崎北工業会、高津ものまちづくり会、ANALOGERなどなど、会社の他にもたくさんの団体に関わる、若くアクティブな社長です。

和興計測・五十嵐崇社長に、ものづくり技術へのこだわりやプライド、そして地域、川崎の発展に対する想いをお聞きしました。

小さな会社の大きな矜持

当社は液面制御機器というものを作っている、従業員11人の小さな会社です。よく会社のトップは「会社を発展させる」ことを考えると思いますが、ぼくの頭の中には、「会社を大きくしない」ことがいつも頭にあります。液面制御機器とは、金属タンクの中に入っている液体について、残量の監視、流量の制御をするもので、得意先ごと、現場ごとにさまざまな依頼・要望があります。当社のカタログには実に多くの製品がありますが、これらは当社で作って販売したというより、ニーズを受けて開発したものなのです。これが技術をメインとしたものづくりを40数年続けてきた、当社の強みですね。だから会社を大きくすると小回りがきかなくなり結果として会社が生き残っていくのは難しくなる。だから、今くらいの規模で仕事が成り立つように考えています。
これが液面計。私たちのくらしを陰で見守ってくれています。
これが液面計。私たちのくらしを陰で見守ってくれています。
人数が少ないですから、社長・社員というよりもみんな家族みたいなものですよ。だから得られた利益は社員にきちんと還元する。これが少数精鋭でやっていくために必要だと思っています。社員のみんなも、仕事が間に合わなければ休日返上でやってくれています。強要しなくても一人ひとりが「そうするべき」と考えて行動しているんですね。

ものづくりの現場から、いきなり営業に? ~五十嵐社長の分岐点~

ぼくはこの会社に入社して、7年くらいフロートスイッチの組立てをやっていました。ものづくりをしながらも、お客さんと仕様や納期の打ち合わせなどで、お会いする機会も多く、仕事上のお付き合いをしているうちに仲良くなって、飲みに行ったりもしていました。そんな日々を送っていたら、創業者の先代社長から「明日から上に上がってよ」と言われたんです。
うちの会社は1階が工場、2階が事務所になっています。ずっとものづくりの仕事をしていたので「上に行って何をするんですか」と聞くと「営業だよ」って。もともと先代は全部あっという間に決めて、あっという間に行動し、即決する人物でした。

そんな経緯で営業の仕事をすることになったのですが、経験がないから何をしていいか分からない。そこで、たまたま営業の仕事をしていた自分の父親に相談して「とりあえずお客さんのところに行けば何とかなる」と教わりました。当時付き合いのあったお客さんの中には、電話で話してはいたけれど直接会った事がない人がいっぱいいました。そこから行ってみよう、と片端から回ると、「若い子が来たから、少し仕事を出してあげよう」って気遣ってもらえて。それを地道に続けていくと、次第にネットワークができました。この時ネットワークが当社には大事だな、ということに気づいたんです。

とことん「ものづくり」にこだわる「技術の和興」

左がかわさきマイスター、堺昭二さんによって加工された部品です。<br>右の加工前と比べると見違えるようですね。
左がかわさきマイスター、堺昭二さんによって加工された部品です。
右の加工前と比べると見違えるようですね。
当社は重工業のような大きな会社とは直接取引はしません。小さな会社がいろんな場所、それこそ全世界に品物を出すには、販売店さんの力を借りることが必要です。そのためには営業ネットワークを作らないとダメだ、と思い現在に至りました。

ホームページを見てもらうと分かりますが、取扱店のところにたくさんの大手取扱店さんの名前が入っています。これは担当者さんを一人ずつ口説いて、小さな仕事でも少額の商品でもつながりを持てるように頑張りました。これを3年、4年と続けていくと、取扱店の中でも和興ファンが増えてきましたね。面白いことに、そうやってつき合ってきた人達が10年経つと所長、部長、取締役といった役職に就いている。そこで「うちは和興さんで行く!」と言ってもらえたりするんです。
組立の現場にて。一人一人が精鋭部隊です。
組立の現場にて。一人一人が精鋭部隊です。
そのためにも「技術」を大切にしています。和興計測は小さくても「メーカー」であり、メーカーとして技術は何より大事なものだと考えています。今は合理化を優先する企業が増えて、この業界でもものづくりを会社の外でやる「ファブレス」が進んでいます。設計は社内でやるけれど、ものづくりは外注に出すんですね。何しろものづくりをするためには、在庫・機械・人…いろんなものを会社で抱えないといけない、場所もお金も時間もかかる、実はとても大変なことです。

それでも当社では、できることはなるべく社内でやろうとしています。一つずつ加工、組立、検査をすることで、技術の低下を防ぐ。若手に見せる、一緒にやることで社員教育、技術の継承もできる。うちにはかわさきマイスターの堺昭二さんをはじめ、高い技術を持った人が何人もいます。こうした人達の技術を大切に継承していきたいですね。また、商品に不具合が生じた時に社内で作ったものであれば、どの行程で不良が出たのか、どこで間違っていたのかがすぐに分かります。ファブレスにすると行程の検証や、品物の改善ができなくなる。人も育たない。結果、お客さんも離れていく。だから、とにかく技術を大切にし、これからも「技術の和興」で行きたい、と考えています。

【かわさきマイスターとは】
川崎市が極めて優れた技術・技能を発揮して産業の発展や市民の生活を支える「もの」をつくりだしている現役の技術・技能職者を市内最高峰の匠として認定しています。

他社との助けあい、地域とのふれあい

そうは言っても、製品を作るには一つの会社だけではできないことがいろいろあります。当社のものづくりにはメッキ、塗装、溶接の技術が不可欠ですが、それはうちではできません。でも会社の周辺をひと回りしてもらうと分かりますが、目の前は板金屋さん、ちょっと行けば塗装屋さん、メッキ屋さん、溶接屋さん、と、うちでできないことをやってくれるところがたくさんあります。近所を一周すると部品ができあがりますよ。また周りの会社からも、何かあればうちに仕事を持ってきてくれるといった、相互通行の関係でやっています。

でも、こうした近隣企業は最盛期の頃と比べると約半数になっています。やはり後継者問題、企業として成り立たない、といったことが原因ですね。この不況下で「会社を継いでくれ」なんてとても言えない、なんて言う社長さんが結構います。これを何とか打破するために、うちで仕事をとって周りも潤えば良いなと思っています。
市内の小学校から見学に来る子どもたちに、マイスターの<br>仕事を安全に見てもらえるよう作った窓だそうです。
市内の小学校から見学に来る子どもたちに、マイスターの
仕事を安全に見てもらえるよう作った窓だそうです。
近所の会社がなくなることで、企業や業界だけでなく、地域にも新しい問題が生じるんです。住工混在問題と言いますが、以前工場がたくさんあった地域で、企業がつぶれて住宅が建っています。そこで企業と住民の間にトラブルが生まれます。この問題解決に、工業会や川崎フロンターレ、専修大学、川崎市などで取り組んでいます。

我々は川崎市の条例、日本の法律に沿って運営していますが、それでも一時的に匂いが漏れ出てしまった、なんてことがあります。企業側としては「そんなこと」でも、住民としては「あの工場は大丈夫なの?」と不安になりますよね。そこで近所の公園で行う納涼祭に合わせて「オープンファクトリー」をやろうと考えています。企業を解放して住民のみなさんに見学していただいて、「こういうことをやっています」ということを理解・安心してもらうんです。
不安や不満ってためると爆発しちゃいますが、こういう企画でつながりができれば、ちょっとしたことでも言ってもらえますよね。そして企業側も改善できる点が分かります。また、多くの人に企業を知ってもらうために、等々力競技場でも企業展を行う計画を立てています。

新しい挑戦から、「川崎のものづくり」を全国に発信へ

当社も液面計だけで将来もずっとやっていけるか、と考えると厳しいので、新しい商材作りもやっています。その一つが、福祉関係をターゲットにした「水時計」です。砂時計の中身が水になったものが、お土産品などでありますよね。これを元にして、養護学校の時間割を、簡単に分かりやすく見えるようなシステムを作っています。学校の一日は「帰れる」というゴールがありますが、障がいのある方には、針がグルグル回る時計では混乱して「いつ帰れるのか」分からなくて不安になるそうです。そこで「この位置になれば帰れる」がパッと見て分かるシステムを、川崎市内の4社が集まって開発していて、7月末までには第一号機ができあがる予定です。完成したら高津養護学校に一台寄付し、贈呈式をちょっと派手にやることで、川崎のものづくりをアピールしたいですね。

福祉関係のものづくりは、実は和興計測にマッチしているんです。福祉に使うものって、オーダーメイドなものづくりが必要ですし、最先端の技術よりも安全性を求められます。そこで、ものづくりのアイデアを練るために数年前から展示会を見て回って、今あるもの、求められているもの、クリアしなければならない基準など、いろんな情報収集をし、今は本格的なものづくりに入った段階です。今年は実機を作ってみなさんにPRし、いずれは県外にも「川崎のものづくりここにあり!」と発信したいですね。

震災の記憶 ~ものづくりができる復興支援とは?~

工場の中にあるデモンストレーション機。<br>液面計のしくみがよく分かります。
工場の中にあるデモンストレーション機。
液面計のしくみがよく分かります。
これはあまり良い話ではないのですが、液面計は災害があると需要が伸びます。ですから、東日本大震災が起こってからここ数年、当社の売り上げは順調に伸びています。災害があると非常用発電、いわゆる自家発電機が必要になります。エンジンを回して発電する機械で、必要な燃料の量を制御するのが当社のスイッチです。人の不幸で儲けているみたいになってしまうんですが、震災後にはかなりの注文をいただきました。ただ、急に必要と言うことで納期がかなり厳しかったです。

また、先代の時代に阪神大震災が起こりました。その時『一輪車を400台1週間で作って欲しい』との依頼がありましたが、結局納期的に作る事はできませんでした。後々、この事を非常に後悔したと話しを聞いてましたので、そんな場面が来たら絶対できる体制作りをしようと考えていました。我々が本当にできる復興への協力は、そういう事だと考え、今回の震災時には徹夜覚悟でものづくりをし、お客様の希望に応えました。

未来への展望 ~100億よりも100年企業へ!~

我々は、100億の売上げよりも100年続けられる企業を目指しています。と日頃から言っています。今は残念ながら、会社に20代、50代の人がいないんです。年代が揃っていないと、技術もですが、むしろ、気持ちや会社のカラーの継承が難しいですね。20代の人に入社してほしいと思っていますが、やはり大企業に魅力があるのでしょう。でも来ていただければ、当社の魅力をPRさせてもらえれば、入社してもらえると思うんですよ。当社の誇りなのですが、今まで自分から辞めたいと言った従業員はいませんから。

液面制御機器の仕事はもちろん大切に続けていきますが、100年続けていくために今後はもう一、二本の柱を作っていきたいですね。福祉関係のものづくりもその一つです。そのためにもいろんなところに出かけ、最先端の技術や時代の流れを把握する努力をしています。そして培ってきたネットワークを最大限に活用しながら、近隣の企業一丸となって、ものづくりを進化させていきたいと考えています。



…「会社を大きくしない」というお話を初めは意外に感じましたが、聞けば聞くほど納得でした。誠実なものづくりを貫くため、社員を大切にし、永く会社を続けるためのポリシーなのですね。先代から続く「人材」ではなく「人財」という呼び方からも、人とその技術を大切に考える想いがうかがえました。
和興計測さんを中心に、川崎がもっともっと元気になっている。お話を聞いているだけで、そんな未来が見えてくるようでした。
株式会社 和興計測
住所:神奈川県川崎市高津区久地864番地1
TEL:044(833)7181
FAX:044(850)8586
ホームページ:http://www.wako-keisoku.co.jp/

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株式会社フューチャーリンクネットワーク(TEL:047-495-0635)
川崎市経済労働局労働雇用部(TEL:044-200-2276)

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