ZOOM UP:かわさきの元気企業
第16回 三和クリエーション(株) 手塚社長に聞く
「10万分の1ミリ」の加工精度で、世界へ。
2013/08/29
「10万分の1ミリ」と言われて、どれくらいのサイズなのか想像できますか。
私たちの日常生活ではなかなか馴染みのない数字です。今回は、シャープペンの芯より、髪の毛より、もっともっと細い直径0.001ミリ以下のピン先を10万分の1ミリという精度で加工する三和クリエーション株式会社の手塚健一郎社長にお話しを伺いました。
会社創立の経緯を教えてください
30歳過ぎたら独立する!
三和クリエーションの前身となっているピン・シャフト製造会社の取締役に就任したのが31歳の時。8年以上努めた大手企業を辞め「30過ぎたら独立する! 2年以内に独立する」という決意の上での転職でした。
従業員5名でピン・シャフトを製造している町工場。営業はもちろん銀行対応から就業規則の整理まで、全てやりました。結果的に今の会社を作ってから、その会社も買い取って吸収しました。
その当時のスタッフで残っているのは、今の工場長ひとり。後の方は皆リタイアメントしました。事業の軸となる高精度ピン・シャフトの加工技術を若いスタッフに教えているのが、その工場長です。
それ以外の技術は、お付き合いしている外部のメーカーに教わってきました。お客様と信頼関係を築いて、相手の懐に入っていって、お客様のニーズを伺いながら、指導を仰ぎながら、ここまで来たという感じです。
何度か、事業継承の難しくなった取引先から、技術と設備を買い取って…、ということもありました。
……社長の人柄、人付き合いなど、全てが今の三和クリエーションにつながっているようです。
「ナノ・グラインド」技術とは?
川崎ものづくりブランドにも認定された「ナノ・グラインド」技術
入り口には川崎ものづくりブランドの認定証が飾られている
「ナノ・グラインド」は、社内で生み出した造語です。ナノというのは、100万分の1ミリというとても微細な単位。グラインドは研削・研磨するという意味で、この2つの単語を併せて、超微細な精密加工技術を表しています。
1階にある作業場では、超硬合金やセラミック、ダイヤモンドなどの硬質な難削材が、ダイヤモンド砥石やダイヤモンドパウダーによって、高精度に超微細加工されています。
それらは、私たちが生活の中でお目にかかることは、ほとんどありません。ですが、私たちの暮らしに欠かせない様々な製品の製造工程で、無くてはならない工業用部品です。
とても硬くてシャープペンの芯より細い「0.07mmミクロンピン」
例えば、シャープペンの芯より、髪の毛より、ずっと細くて硬い「超硬ミクロンピン(金属棒)」。これは、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置やインクジェットプリンターのノズルなどに小さな小さな穴を開ける際に、必要不可欠。直径が50ミクロン(0.05ミリ)という細さながらピーンと硬く、しなりもあって、電気を通すので、微細な穴の高精度加工には持ってこいです。
指先でつまみ上げるのも難しい細さの「1umピン」
その他にも、半導体や基板などの微細部品のゴミを区分けするために顕微鏡を覗きながら使うピンの先が、0.001ミリ以下に仕上げられています。
このように、硬質な難削材をナノ単位の高精度で研削・研磨する技術を「ナノ・グラインド」と呼んでいます。
加工技術だけでなく、素材の研究も
三和クリエーションでは、金属よりも硬い非鉄素材の超硬合金を扱っています。その中でも一番硬いとされるのがダイヤモンド。もちろんダイヤモンドをダイヤモンドで加工することもできます。
メーカーの製造工程で、製品と機械の接触面となる箇所、台や刃先の部分が一番すり減りやすいので、その部分だけでもダイヤモンドを使うと、耐久性がグンと上がり、精度も安定します。
これからは、加工技術だけでなく素材、材料そのものについても提案していける企業になりたいと思い、2004年から韓国の大学と提携して超硬合金素材の共同開発を進めています。より細く、より小さく加工するには、材料の粒子サイズまで追究していかなければならない。そして、材料から提案できることは、ものづくり企業としての強みのひとつにもなっています。
従業員はベテラン職人さんが多いですか
平均年齢32歳、20代前半の製造スタッフも
若い女性スタッフも活躍中
我が社は、様々な加工技術を持っていますが、そのひとつひとつの仕事が大量にあるわけではなく、多種の作業が発生しています。ものづくり企業と言っても、専門の職人がいるわけではなく、ほとんどのスタッフが多能工、また多能工を目指して修行中です。平均年齢32歳と、若いスタッフが多く、また、最近20代前半の女性スタッフが2人、製造グループに加わりました。
川崎チャレンジ就職事業や
株式会社きらりなどの派遣・紹介制度を利用して、若いスタッフの採用・育成にも力を入れています。
今後の展望は?
これからは、海外!
ここ4~5年、ちょうど“もっと地域と連携できないか”と考え始めたころから、川崎市とのコンタクトが増えてきました。
中小企業、ものづくり企業への施策や助成金などが増えてきた2008年に、川崎市産業振興財団の「川崎元気企業」に認定され、我が社の技術力が広くアピールされるようになりました。
これからは、海外マーケットの開拓。
国内だけでマーケットを広げようというのは厳しいと思います。今も海外とのつながりはありますが、ダイレクトな取り引きを開拓していきたい。うちの技術がどこまで通用するのかということも含めて。
そのために、海外の展示会への出展に奔走し、ホームページの英語版はもちろん、中国語版の準備も進めています。
新規事業は医工連携
ウェルネス事業部で扱っている新商品
2011年に川崎市が「かわさきライフサイエンスネットワーク事業」の一環で「医工連携マッチングセミナー」を開催しました。「医療の現場で欲している技術や機器を、中小ものづくり企業の技術で!」という取り組みです。
これがきっかけのひとつとなり、「予防医療」と「アンチエイジング」に貢献する商品開発・販売を軸にしたウェルネス事業を立ち上げました。
これまでは、B to Bオンリーでしたので『B to C(消費者向け)の商品も作りたい.』という思いと『医工連携』という分野が、ちょうど自分の中でピン!と来たんです。
現在は、茶カテキンから作ったマウスウォッシュや特殊なナイロン樹脂を使った舌スムーザーを開発販売したり、アスリート向けに販売されていたボディクリームに付加価値を付けてリニューアル販売したりしています。
……これまで10万分の1ミリの世界を追究してきた真っ直ぐで、情熱的な社長が「今までの事業と違い健康産業の分野はとてもファジーな印象がありますが、しっかりしたエビデンスをもって商品を開発し、適正価格で消費者に届けていきたい」と語ってくださいました。
更なる、超微細・高精度な加工技術の追究はもちろん、若いスタッフの採用・育成によって、川崎のものづくりがどんどん元気になっていく。「ものづくり都市川崎」が世界に通用する未来が見えてくる…、そんなパワーを感じさせてくれる手塚社長でした。