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キラリ輝くものづくり人づくり 平成18年度掲載企業

株式会社フジクロム社

フジクロム社は、創業51年を迎える工業用クロムめっき専門会社。日本一という深さ10メートルのめっき液槽を持ち、めっき液脱鉄法で科学技術庁長官奨励賞、めっき液リサイクルシステムで日本産業機械工業会会長賞を受賞するなど、正寸めっきの量産で高い技術を誇っている。「めっきは外来語ではないので、ひらがなです」という藤田茂雄社長は「中小企業で一番大切なのは社員です」。パートさんらを一切使わず、正社員だけですべての仕事をこなしている。正社員、めっき液リサイクル、治工具の自社製作が社の3本柱だ。

トップインタビュー(株式会社フジクロム社 代表取締役 藤田 茂雄さん)

めっき業界とのかかわりを教えてください。

 「会社は父・裕志(故人)が創設しました。父は飛行機のエンジン設計技師で戦前、勉強のためドイツに渡りました。そこで目にした飛行機の噴射ポンプにクロムめっきがほどこされていました。戦争が始まる直前、氷川丸に乗ってアメリカに渡り、アメリカ大陸を横断して再び船でスエズ運河経由インド洋を渡って帰国しています。大変な旅だったと思いますよ。その時、噴射ポンプを持ち帰っています。硬質クロムめっきされた製品が、それだけ大切だったということでしょう。わたしは三菱自動車で生産技術部門を担当していました。1984(昭和59)年にフジクロムに移っています。」

では、3本柱の正社員から。「一番大切なのは社員」ということを、もう少し詳しくお願いします。

 「技術の継承という点で、当然だと思っています。硬質クロムめっきは、技術をお金で補えないんです。設備投資すればすむ、というケースはありますが、クロムめっきは現時点では、人の能力というか技術に頼らざるを得ないところがあります。高い技術をどう保っていくかが問題です。給与を含め全てが社員優先を基本としています。うちには正社員しかおりません。パート、アルバイト、外人さんらでは、技術の継承ができないからです。当然人件費は高くなりますが、お金にはかえられません。」

そういえば社員に、川崎マイスターを含め高い熟練度の技能者が多いと聞いていますが。

 「川崎マイスターの選考ではこんなことがありました。「うちはめっきを12プラスマイナス3ミクロンで仕上げます」といったら、大学教授が「うそだ」といったんです。ミクロンは1000分の1ミリ。0.012ミリのめっきを0.003ミリの誤差で仕上げるということです。目の前で実演すると、「すごい。本当だ」といって、その教授がマイスターに強く推してくれました。ふつうの紙の厚さは約100ミクロンです。その30分の1の精度で仕上げます。
現在のめっきの技能評価は、装飾用めっきに基づいたシステムです。わが社には全く関係ない評価法です。ですから社員にめっき技能士2級はいますが、1級はいません。ですが、1級より技能が上の社員が多数います。」

思い切った社員評価を展開しているようですね。

 「社内に社員全員の評価表を貼り出しています。技能評価で、全員の技能レベルをオープンにしています。仕事の内容でいろいろな項目があり、項目ごとに評価しています。わたしが評価するだけでなく全員に確認してもらって公表しています。
評価しただけでは意味がありませんので、本人の希望を基にして「あなたは今年は一つ上の級になってほしい」と年度初めにその社員の到達希望値も決め、教育計画をつくっています。具体的には「図面の見方をここまで覚えてほしい」「計測器の使い方をこの線まで向上させてほしい」などです。そしてテストを実施して、受かるまでテストを繰り返します。評価―教育計画―実行のシステムです。全員の評価が高くなり、一度すべてを落として再スタートしたこともありました。物づくりの一番のポイントは人づくりです。人づくりに必要なのは教育なんですよ。」

教育する時間など、どうひねり出していますか。

 「めっき業は、お客様の製品に付加価値をつけることが基本的な仕事です。めっきする製品を、自分で勝手につくるというわけにはいきません。時間があるから明日の仕事の分もやってしまおう、というわけにもいきません。ですから必ず空く時間ができてしまう業界です。この時間をどう生かすかです。教育に使っています。」

めっき液のリサイクルですが、売り物の正寸クロムめっきの量産化とのつながりを話してください。

 「正寸とは図面の指定寸法にめっきを仕上げることです。クロム液再生装置、めっき脱鉄法の開発で正寸めっきの量産化が可能となりました。めっき液は水、6価クロム酸、硫酸でできていますが、使用していると6価クロムが3価クロムに変化して劣化してしまいます。液再生装置はFF式隔膜電解槽といいますが、劣化した液を電気分解して新液に変えます。常に最適なめっき条件を保つ液を持っていられるということです。鉄の製品にめっきしますから、どうしても鉄粉というか鉄分がめっき液に溶け込み、めっき面に凹凸ができてしまいます。脱鉄法はこの鉄分を取り除く装置です。電気めっきは均一に付着しにくく、めっき後の研削仕上げ工程が必要ですが、この工程をはぶくことができました。」

当然、公害対策につながりますね。

 「使用されためっき液は処分され、新しい液に変えるのが普通です。ですからめっき工場は排水場を設けているのが普通です。うちは液を98%リサイクルしていますから、排水場の稼働は10日に1回です。品質向上と同時に、公害対策でも大きな力になっています。」

3本柱の最後は、治工具です。なぜ自分のところでつくらなければならないのでしょうか。

 「正寸めっきの精度を出すために必要です。めっき液の再利用というのは、液を自社で調合しているのと同じことです。その液に最適な治工具は、自分でつくるのが一番です。自分がつくった液ですから、自分が一番よく知っているのは当然でしょう。工具を自らつくることでめっき技術も向上します。社員には治工具をつくり、考案することも求めています。」

日本一という深さ10メートルの液槽を説明してください。

 「長い製品は、縦にした方が均一にめっきできるんです。横にすると均一に電気を流すのは難しく、製品を回転させるなどしていますが、縦が最適です。ただ大量生産には向いていません。」

沖ノ鳥島の復旧工事にもかかわったと聞いています。

 「1989(平成元)年ですね。復旧現場の作業用エレベーターの落下防止用のロッドでした。めっきなしのロッドを使おうとしていたようですが、これじゃあだめだから緊急にやってくれ、と持ち込まれました。硬質クロムめっきして64本を納品しました。硬度、錆の防止などでクロムめっきは大変優れています。硬質クロムめっきしたところは鉄より硬いですからね。飛行機の整備では、整備士がクロムめっきで修正された部品を取り合っているということを聞いています。」

社員のコメント 製造第一課・係長 工藤 竜一さん

めっきをやって19年です。外に出て社のめっきを褒められたこともありました。自分たちがつくった物が世の中に役立っているということが、うれしいです。自分の技能評価がオープンにされることは、そんなに気になりません。逆に自分の技量を再認識できますし、ここをもう少し頑張ろう、この項目はもっといけそうだなどと、励みになっています。他人がやらないことできないことにチャレンジしよう、とみんなでいっています。うちにはスペシャリストの中のスペシャリストといえる技術力のすごい人がいるんです。その人に早く追いつきたい、と思っています。

【事業内容】

 ●工業用(硬質)クロムめっき
 ●めっき液リサイクルシステム (FF式隔膜電解槽)製造販売 

【代表的な業務】

深さ10メートルのめっき液槽から取り出されためっきされた製品 <br>
深さ10メートルのめっき液槽から取り出されためっきされた製品

【会社概要】

■社 名 株式会社フジクロム社
■設 立 1955年4月
■所在地 〒210-0854 
      川崎市川崎区浅野町3―1
      TEL:044-355-5655 FAX:044-355-5625
■代表者 代表取締役 藤田 茂雄
■URL     http://www3.ocn.ne.jp/~fujicr/
■E-mail shifujita@fujichro.co.jp