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キラリ輝くものづくり人づくり 平成19年度掲載企業

株式会社イスマンジェイ

 「メラミックス」―。株式会社イスマンジェイが独自開発した新素材の名前は、メタル(特殊鋼)とセラミックス、両特性を備えていることから作られた造語だ。鉄に比べて軽くて硬い一方、セラミックスに比べて値段が断然安い“次世代の新素材”。しかも、材料は砂漠の砂に大量に含まれるシリコン(珪素)と、大気中にふんだんにある窒素とあって、枯渇の心配はまずない。現在、各方面からの引き合いもあり、量産化に向け着々と準備が進むが、製品化には、ものづくりに適した女性パワーも原動力になっているという。

トップインタビュー(株式会社イスマンジェイ 代表取締役社長・渡邊敏幸さん)

砂漠の砂と大気中の窒素から作られる「メラミックス」。この新シリコン合金が鉄やセラミックスに比べて優位な点がいろいろあるそうですが、具体的に説明してください。

 「まず重量が非常に軽いこと。同じ1㏄の大きさで比較すると、特殊鋼が8㌘なのに対してメラミックスは3.2㌘と、4割の重さしかない。しかも2倍の強度がある。例えば1㌧の車には約350㌔㌘の特殊鋼が使われるが、その分が軽くなれば、燃費も良くなるわけです。
 次に値段。セラミックスは軽いが、もろくて値段が高い。直径4㍉のベアリングボールでは鉄1円に対し、セラミックスは40円もする。メラミックスは10円程度と安価です。また鉄の場合、中国などの成長に伴い、ますます安定確保が心配されますが、メラミックスの原料となるシリコンは砂漠の砂の中にいくらでもあり、ほとんど手つかずです。エジプトのサハラ砂漠の硅石と現地に植林しました樹木(モリンガ)製の木炭から金属シリコンを作る取り組みもビジネスとして進めています。
 さらにメラミックスの製造に当たっては(1)投入する電気エネルギーがゼロ(2)地球温暖化を抑制する効果が大きい(3)設備費が安い(4)作業環境が安全でクリーン―などの利点があります」

渡邊敏幸社長は70歳。“熟年ベンチャー”として注目を集めていますが、そもそも「株式会社イスマンジェイ」を設立した経緯は。

 「私は特殊鋼業界大手の「大同特殊鋼」で45年間、技術者、営業責任者、研究者として歩んできた特殊鋼のプロ。特殊鋼の欠点を知り尽くし、新鋼種の開発に関心を持っていました。例えば自動車のF1レースで一時期あんなに強かったホンダが勝てなくなった背景には、フェラーリが従来に比べて非常に軽いセラミックスを車体などに使うようになったことがあります。それはほんの一例ですが、私は研究や営業を通して、シリコン合金の新体系を作りたいと長年、構想を温めてきたのです。
 そんな時、以前から仕事上の付き合いのあった現副社長の松下昌史氏と再会。2002年にロシアのイスマン研究所を訪問し、“幻のセラミックス”と称されるベータサイアロンの燃焼合成技術を目の当たりにしました。世界でロシアでしかやっていないという技術で、燃焼合成するとシリコンが固溶体合金になり、シリコンが“鉄の世界”の鉄と同様に扱える可能性が分かった。しかし、燃焼合成技術は研究室的技術であり、量産技術には至っていなかった。「いろんなハードルをクリアすれば、燃焼合成技術は日本で量産化技術にできるはずだ」と確信することができ、松下氏と二人で同年7月に会社を設立しました」

そこからスタートし、メラミックスの量産化計画をどう進めてきたのですか。

 「結晶をとことんまで細かくすることが強度を高めるための最重要のポイント。「500ナノメーター(ナノ=10億分の1)にまで超微細化するにはどうするか」を至上命題としました。想像も付かないと思いますが、たばこの煙(200ナノメーター)を想像すればだいたい分かるでしょう。この技術を1年半かけて実現しました。
 また、メラミックスの燃焼合成を工業的量産技術として実施する際の課題を克服することも必要でした。圧力が数十気圧と高い中での発熱反応は、危険性が非常に高い。防爆室を設け、遠隔操作を余儀なくされるなどコストもかかる。安全に大量生産していくには、圧力や温度を一定に制御できる燃焼合成装置を開発することが不可欠でした」

制御型燃焼合成装置の開発も含め、神奈川県産業技術センターなどの協力が得られたことも、大いに役立ったようですね。

 「同センターには「セラミックスに相当できる材料が安くできるなら面白いね」と言ってもらい、立ち上がりからいろいろお世話になりました。同センターをはじめとする各研究機関から技術的サポートを得られたことも良かったです。センターの紹介もあり、川崎区南渡田のTHINK(テクノハブイノベーション川崎)に本社工場を設置。工場生産規模での低廉直接合成に併せて、超微粉末化に成功、メラミックスと名付け商品登録しました。さらにこの粉末を粘土状のコンパンドにして成形・焼結してベアリングボールに加工するシステムを構築しました。自動車会社や金属材料メーカーなど数十社から引き合いがあり、既にサンプル出荷を始めています。
 03年2月に65歳で大同特殊鋼を辞めたのですが、お陰様で、同年6月に県創造法の認定を受けたほか、市など主催のビジネスオーディションの起業家大賞などをいただきました。社会に貢献することの大切さを知りました」

量産化への道筋が着々と見えてきましたが、将来的な数値目標はありますか。

 「燃焼合成装置を四基設置し、月産10㌧の生産工場が完成しました。2008年3月から量産稼働の予定です。10年後には月産10万トン弱、年産にして100万トンレベルに引き上げたいと考えています。日本国内の特殊鋼生産量が年間2000万トンですから、その5%程度なんですね。特殊鋼と競い合うと言うよりも、互いに補完関係を構築していきたいと考えています」

さて、会社の本格稼働に向け、職場の雰囲気も随分活気がありますが、ここまで基盤が固まってきた陰には、女性の“ものづくりパワー”があるそうですね。

 「従業員あって会社がある。会社あって従業員がいる。一緒に仕事をしている人みんながハッピーになる場がイスマンジェイ。もうかったら山分けでいい。15人中5人がパートと云う形でいずれも家庭の主婦の方々です。大企業のOL経験と会社経営経験のある女性が、知り合いや昔の同僚に声を掛けて集まってくれた。家庭の仕事をベースにし、勤務は空いた時間でやってもらえばいい。子供の学校行事など予定があるときは2、3時間で帰ることもあるし、逆に、必要あらば休日出勤もいとわずにやってくれています」

女性が「ものづくり」において、男性に比べて優れている点とはどんなことでしょうか。

 「ものづくりは料理に近い。触った感覚、見た感覚など、主婦ならではの“アナログ”のさじ加減がすごくいい。工程の細かな調整や改良は女性パワーによるところが大きいです。製造開発主導チームを、匠のタクから取って〝タクちゃんチーム〟と呼んでいますが、メンバー5人は全員女性。意欲的で、進取性も優れています。今回導入したベアリングボールの製造装置は、実は製薬会社の丸薬を作る機械を改良したものです。チームは昨年、その機械を作っている関西の会社に指導を受けようと日参。何とか説得して11回も通い、技術を学んできました。その意気込みや粘りたるや、本当にすばらしいです」

社員のコメント 松下洋子さん/取締役

 6年前に渡邊社長に出会い、「自分流に生きる」ことを教わりました。
 前日に「あしたはこれとこれ」というように、自己責任のもとに、自分でスケジュールを立てています。
 自分の仕事を自ら積み上げていけるので、やりがいがありますし、張り合いを持って仕事に迎える日々です。いい加減なものを創りたくないので、常に真剣勝負の心意気で夢を共有しながら頑張っているチームです。
 LOHAS(健康と環境、持続可能な社会生活を重視する生活スタイル)を会社の理念にしていることも心から喜んで取り組めます。渡邊社長はいつでもどこでも誰に対しても同じで雰囲気で対応されるので安心を頂きます。
現場での問題は個々の視点で絶えずコミュニケーションを取りながら共有してリアルタイムに解決方向に行くように心掛けています。
 私たち「タクちゃんチーム」はベアリングボールの製造装置を「ガンちゃん」と呼んでいとおしんでいますが、 ナーバスな微粉を扱うのでちょっとしたことでうまくいかなくなります。そんな時は、装置にもハートがあってストレスかもしれない・・・と作業終了時には「お疲れ様」と言って撫ぜて帰るんですよ。
(右から二人目が松下洋子さん)

【事業内容】

●新素材の開発・製造・販売。素形材の加工・販売
砂漠の砂に大量に含まれるシリコンと大気中の窒素を、制御型燃焼合成装置を使って燃焼合成させ、新シリコン合金「メラミックス」を開発。ベアリングボールとして量産化に取り組む。2008年3月の本格稼働に向け、多数のメーカーに有償サンプル出荷中。
メラミックス微粉末
メラミックス微粉末
メラミックスの球
メラミックスの球
メラミックスシートのサンプル
メラミックスシートのサンプル
メラミックス板のサンプル
メラミックス板のサンプル
【会社概要】

■社 名 株式会社イスマンジェイ
■設 立 2002年8月
■所在地 〒210-0855 
      神奈川県川崎市川崎区南渡田町1-8 Think未来工房
      TEL044-873-3335 FAX044-873-3336
■代表者 代表取締役社長 渡邊敏幸
■URL     http://www.ismanj.com/
■E-mail w@ismanj.com