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かわさきマイスター活動レポート

2009てくのかわさき技能フェスティバル

19人の「かわさきマイスター」が匠の技を披露

提供:川崎市
9月27日(日)、川崎市高津区溝口の“てくのかわさき(川崎市生活文化会館)”で、「2009てくのかわさき技能フェスティバル」が開催されました。14回目を迎えた今年も、大人も子どももたのしめる約20種類の体験教室が用意されましたが、川崎市が「極めて優れた熟練の職人」として「かわさきマイスター」認定された技術・技能者が、素晴らしい技を披露しました。そのなかから、当日ご参加された19人のマイスターの皆さんにお話をうかがいました。

小林伸光(こばやし のぶみつ)マイスター 和服洗い張り

小林伸光さんは縮めんや紬(つむぎ)などの高級絹織物に欠かせない「伸子(しんし)張り」といわれる洗い張りの技を継承しています。伸子張りは着物をほどいて洗った後に、いったん縮んだ生地を写真のように着物の両端をひっぱった状態で、生地の裏を上にして下の表側に「伸子」とよばれる竹串を1本ずつさしながら糊をつけ全体をならしていく手法です。

「何10年たっても再生がきくのが着物の価値」と、小林さんはいいます。「着なくなったものでも思い出のものは、綿いれなどにして残しておくのもいいですよ」とも。<br>
「何10年たっても再生がきくのが着物の価値」と、小林さんはいいます。「着なくなったものでも思い出のものは、綿いれなどにして残しておくのもいいですよ」とも。
伸子張りは、昭和30年代くらいまでは一般家庭でおこなっている風景もよく見られたそうですが、職人の技となると、いつ一人前になるかけじめのつかない仕事で、40年以上携わっている小林さんにしても「業界でも若手」とご自身がいうほど奥深い技が要求されます。たとえば、絹は放っておくと乾燥しますが、長ければ長いほどその度合いが高くなります。特に大島紬などは乾燥してしわ(・・)が出ると価値がなくなってしまうとのことで、それを再生させる際のポイントが「すすぎ」。何十年も水を吸ったことのない着物が水を吸うと生き返り潤いが出てきます。襟、袖ぐちなど汚れるところはだいたい決まっていて、その部分を重点的に全体を平らになるようにブラシで洗っていきますが、その水洗いもむずかしく、熟練の技が必要とされます。

都倉正明(とくら まさあき)マイスター フラワー装飾

親の代からの花の専門店を田園都市線の宮崎台駅前で経営している都倉正明さんは、「技術と新鮮」をモットーにフラワー装飾の魅力を広めてきました。「98世界らん展フラワーデザイン部」では最優秀賞を受賞しています。この日は希望者にときおりアドバイスを加えながら実際にフラワーデザインに挑戦してもらいました。
「ちょっとやってみてもいいですか」と来場者も挑戦。都倉さんもときおりアドバイスをしながら、気にいったフラワー装飾を作りあげるのをお手伝い。<br>
「ちょっとやってみてもいいですか」と来場者も挑戦。都倉さんもときおりアドバイスをしながら、気にいったフラワー装飾を作りあげるのをお手伝い。
花をデザインする際のポイントは、「まず好きになること。型にはまらないで自分の思うように活けていいのですが、丹精をこめて活けること」と都倉さんはいいます。フラワー装飾へのファンは根付いていて、関心をもつ若者も増えてきているとのことですが、感性はなかなかいいものをもっているのに厳しくすると嫌になってしまうなど、「愛情をこめていわせてもらうならば、ちょっと根気がたりない面があるかも」。業界の役員として後継者の育成にも尽力されてきた都倉さんとしては、そのあたりがちょっと気になるとのことです。

若林近男(わかばやし ちかお)マイスター 表具師

表具とは、掛け軸、屏風、ふすまなどに紙や布を糊で貼りつけること。若林近男さんは古い表具から現在のクロス張りまでその優れた表具の技能で手掛ける熟練表具師です。当日はイベント向けに表具で使う和紙で手づくりした和封筒を販売していました。その売り上げは市へ寄付されます。自分で製作しているこの和封筒は、かわさきマイスターとして参加するイベントですっかりおなじみになり、これをお目当てに訪れる人も少なくありません。
表具で使う和紙で作った手作りの和封筒は好評で、それをお目当てにくる人も。
表具で使う和紙で作った手作りの和封筒は好評で、それをお目当てにくる人も。
表具の中でもふすまは、住宅事情の理由から、張り替えはあるものの新規の仕事は減ってきているといいます。和室のある住宅が少なくなったり、あったとしても工場でできあがったふすまを使うことが多くなったりしてきているとのことです。若林さんは平成13年にやめるまで22年間技術校で講師をしていましたが、「そのころはふすまがあったからね。その学校も廃校になりました」と感慨深げ。逆にクロス張りは住宅の表具の90%以上を占め、需要は多いとのことですが、「天井などそっくりかえって張ることが多い」ので、それはもっぱら若い後継者にまかせているとのことです。

石渡弘信(いしわた ひろのぶ)マイスター 手描友禅

経産省認定伝統工芸師の手描友禅作家、石渡弘信さんはかわさきマイスターの初年度認定者です。石渡さんは学校訪問やイベントなどを通じ、子供たちに下絵作成の指導もしています。この日もたくさんの子供があらかじめ描かれた図案に色付けをしていく作業を目を細めながら見守っていました。指導にあたっては、図案の枠からはみだしても気にさせず、色も自由に使わせて描かせています。「それぞれが好きなようにして色付けしたほうが、個性的で人をひきつけるものができあがる」という考えです。石渡さんご自身が作品を手がけるにあたっては、「手描友禅は工芸などと同じで、作品が実用品として人に使われなくては意味がない」という考えから、使う人の意にそったものを完成させるようにこころがけています。そのためには、今日性や地域性も大事にしていきます。
背景に立てかけてあるのは子供たちが色付けしたものの1枚。発想を自由にして描くように指導しています。<br>
背景に立てかけてあるのは子供たちが色付けしたものの1枚。発想を自由にして描くように指導しています。
手描友禅の工程は簡単にみても20工程くらいあるそうですが、その一つ一つの工程への技術的な対応が十分できてからでないと作品上での自己表現をするのは難しいとのことですが、それぞれの工程の習熟度をあげるには、並大抵の時間ではできないとのことです。「10年たって年季明けでやっとお給料がもらえた」という石渡さんの修業時代とちがい「スピードアップしている時代にそれができるかとなると、なかなか難しい」といいます。この課題はマイスターのみなさんが共通して持っているものかもしれません。

関戸秀美(せきど ひでみ)マイスター 寺社寺院銅板屋根工事

金属板を鎚(つち)で打ち延ばして金属工芸を作る鎚起(ついき)という技に卓越した関戸秀美さんは、社寺建築特有の屋根の形状を銅板葺で作りだす高度な技能を持っています。これまでも鎌倉鶴岡八幡宮や赤坂迎賓館など、かずかずの文化財クラスの屋根のふきかえにたずさわってきました。この日は金属板をのこぎりで型をとっていく作業を見せてくれました。
金属を切るのこぎりは電動のものより手動のほうが手加減がきいて使いやすいそうです。
金属を切るのこぎりは電動のものより手動のほうが手加減がきいて使いやすいそうです。
のこぎりは複雑な切り抜きが多いせいもあり、電動のものよりも手加減のきく手動のほうがなれているとのことです。鉄でも銀でも金属はすべてそれで切りまわしていきます。銅板を打ちだしたり切ったりする鏨(たがね)は、奈良大仏の台座のハスの花弁を彫った際に使われたものと変わらないものがいまでも使われています。関戸さんは昔とおなじものを自分で作って使っています。また、四角形の方形屋根の頂点にある台座(露台)に収まる玉ねぎ型の宝珠は、今では厚い金属をたたいて作る方法はまれだそうで、「へらしぼり」という機械に型をおいて、ろくろにかける様に回転させながら力を加えて凹凸を付けていく方法がとられるとのことです。

井上衛(いのうえ まもる)マイスター 造園士

50年以上、造園業を営んできた井上衛さんは、庭の作図から樹の選定、植生の配置など、基礎から応用まで造園のすべてにわたり対応できる数少ない造園士の一人です。この日は垣根の結び方をディスプレイ。垣根には霜よけに使う棕櫚(しゅろ)縄を撚って作った松竹梅も結ばれていました。ちなみに写真にある垣根は「男しばり」というしばり方です。しばり方は人によってそれぞれとのことで、井上さんも試行錯誤をかさねながら自分なりのしばり方を作りあげてきました。
垣根そのものが少なくなった現在では、後継者にとっては垣根のしばり方の習得にも苦労があるといいます。
垣根そのものが少なくなった現在では、後継者にとっては垣根のしばり方の習得にも苦労があるといいます。
造園1級技能士として技能検定の選定委員なども務めてきて井上さんですが、いまはもっぱら後継者の指導にあたっています。しかし、垣根のしばり方にしても、垣根そのものが少なくなったいまは若い人が経験をつみあげていくことができなくなったという悩みがあります。技能は実際に体で覚えていくものなので、試験に際し練習を重ねて合格しても実習の場が提供されないと「すぐに忘れてしまう」ということです。