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かわさきマイスター活動レポート

第30回幸区民祭

人気呼んだ“かわさきマイスター・コーナー”

提供:川崎市
10月16日(土)と17日(日)の2日間、幸区戸手本町の幸区役所一帯で幸区民祭が開かれました。地元の行事として親しまれているこのお祭も今年は30回目を迎え、ますますパワーアップ。両日ともおおむね秋らしい晴天に恵まれたこともあり、ファミリーをはじめ、子供から年配層まで多くの人出で賑わいました。中央広場での和太鼓演奏や歌謡ショー、幸文化センター大ホールでのカラオケ大会やダンスショーなど数々の催しものが祭を盛り上げたほか、出店やバザーのテントがずらりと並び、どこも大盛況。健康福祉プラザ側に設けられたかわさきマイスターの実演・販売コーナーの前にも常時、大きな人だかりができ、他の出店にはない、匠ならではの優れた技や品物に驚きの声が上がっていました。16日に出展されたのは、次の3人のマイスターたち。なお、17日には石塚よし子(洋裁技能士)さんも参加されました。


浅水屋 甫さん(広告看板製作)――表札作り

表札から石油・ガスタンクの表面まで、対象やサイズを選ばず、文字や絵を手で描く名人である浅水屋さん。区民祭恒例の表札作りでは、朝から立て続けに注文が舞い込み、大忙しでした。マイスターの鮮やかな筆さばきについ、足を止めて見入るお客さんの輪が途切れず、その腕前に即座に購入を決めるお客さんが後を絶ちません。午前中の1時間で約10枚を売り上げて用意しておいた木材がわずかになり、慌てて娘さんの美枝さんが自宅に補充に行くという場面もありました。人気の理由をご本人に尋ねると、「直に描いているし、木のあったかみ、自然のあったかみがあっていいんだろうね」とのこと。

木材は目のつんだヒバを使用。毛筆のイタチの毛はなんと「産毛」だそうです
木材は目のつんだヒバを使用。毛筆のイタチの毛はなんと「産毛」だそうです
注文を頂くと、お客さんに紙に名前を書いてもらい、字が滲まないように「とのこ」を刷り込んだヒバ材に目安の印をつけ、愛用のイタチの毛筆に黒い塗料を含ませ、流れるように描いていきます。一旦描くと、見栄えがするように太さや撥ねの箇所などを微調整していき、描き終えたら、木材を乾かし、艶出しスプレーをかければ完成。仕上がりまで20分とかかりません。ドライヤーやスプレーをかけたり、お客さんの対応には、二代目でもある美枝さんがお手伝いしていました。
興味津津、マイスターの手元を覗き込む子供
興味津津、マイスターの手元を覗き込む子供
「すぐに描いちゃうよ!」と、きさくな浅水屋さん
「すぐに描いちゃうよ!」と、きさくな浅水屋さん
大勢の来場者が足を止め、筆さばきに見入っていました
大勢の来場者が足を止め、筆さばきに見入っていました
「珍しいわね」と立ち止まる人や、「明日は何時からやっているの?」と声を掛けるお客さんも。「字がきれいで癖がないから」と購入したある女性は、仕上がりを見て、「字が素敵なのにお値段は安いし、こんな機会はめったにないので嬉しい」と話していました。赤ちゃんを抱いた若い女性は、「表札は初めて買いました。あるといいなと思っていたけれど、やっぱりかっこいい」と、満足の様子でした。コンクリートに取り付ける場合が増えたため、今は穴をあけないで、希望に応じて両面テープを貼付けてお客さんに渡しています。表札用とは限らず、初節句などのお祝いに飾りたいと、お子さんの名前や生年月日を描いてもらうお客さんも多いそうです。
あらゆるところが浅水屋さんの仕事場です。電車の橋梁の鉄骨の裏側に文字を描いた時は、「暗いし、狭くて手が届かないし、頭が押さえつけられて苦労した」とのこと。時にはクレーンやスーパーデッキで地上40メートルの高さまで上ったり、ビルの壁面での足場作業もあります。大きな文字を書く時は、まず、10分の1のサイズに原稿を描き、それに碁盤目状に線を引きます。次に、文字を描く場所にも碁盤の目が交差する箇所に印をつけ、原稿と照らし合わせて、文字を描いていくという寸法です。

字が滲まないように「とのこ」を擦り込みます。使っているのは、白い塗料を混ぜて天日干して固めた自作の「とのこ」
字が滲まないように「とのこ」を擦り込みます。使っているのは、白い塗料を混ぜて天日干して固めた自作の「とのこ」
完成した表札。時が経つほど、風合いをましていきます
完成した表札。時が経つほど、風合いをましていきます
デジタル全盛時代に手描き文字にこだわる浅水屋さんですが、文字を描く際のポイントを伺うと、「手首が大事で、基本は書道。『永』の字には点やはらいなど、すべての要素が入っているので、これがきちんと描けるようになれば、全部の文字が描けるよ」と教えてくれました。

★浅水屋さんの詳しい紹介はコチラ

若林 近男さん(表具師)――手作り封筒の販売、屏風展示

和紙や布、糊を自在に駆使し、掛け軸や襖、屏風などの表装をする職人である若林さん。「修理・修復にかけては誰にも負けません」と自負する通り、最高峰の腕前を持った職人であると同時に、「進歩のためには失敗もあり、一生が勉強です」と語る、研究意欲旺盛な匠でもあります。
表具師の基本技術は、糊を引いた和紙を裏貼りして紙を伸ばす「裏打ち」。この時、特別な道具は使わず、刷毛ひとつでしわにならないように紙を重ねていきます。これを目当てに実演会に訪れるお客さんも多いと聞く、若林さん手製の和封筒は、この裏打ちをはじめ表装の技術があってこそ生み出される、端正な品物。「頭の斜めの部分をカットするのが難しい」と若林さんは話しますが、襖紙を型に合わせて正確に裁断し、丁寧な糊付で作られた封筒は、もちろんずれやよれがなく、どこか品格さえ漂います。
ちびっ子たちもやってきました
ちびっ子たちもやってきました
「私が作っているんですよ」とマイスター
「私が作っているんですよ」とマイスター
「どれにしようかしら…」と悩むお客さん
「どれにしようかしら…」と悩むお客さん
襖紙は、機械漉きの「上新鳥の子」と「新鳥の子」、手漉きの「本鳥の子」の3種の和紙を使い、柄は10種類ほど用意。大きいサイズが300円、小さいサイズが200円です。おすすめは、最高級の本鳥の子を使った封筒。質が良い紙ほど、繊維の純度が高く、表面が滑らかで強靭になります。
メール主流の時代になっても、和紙のぬくもりと若林さんの手仕事の美しさは前を通る人の目に止まり、次々と売れていきます。中には、数種類まとめて購入していくお客さんも。あれこれ迷った末、3種類を購入した女性は、「既製品にはない、手作りの雰囲気が気に入りました。特に女性が喜びそう。作った人の顔が見えるのも面白いです。ぽち袋とか手紙に使いたいです」と、笑顔で話してくれました。手作りとは知らずに手に取ったお客さんは、「私が作っているんですよ」とのマイスターの言葉に、びっくりした様子。「きれいね。何に使おうかしら」と感心していました。
屏風の仕組みについて説明する若林さん
屏風の仕組みについて説明する若林さん
明治時代の登記簿を裏貼りした屏風
明治時代の登記簿を裏貼りした屏風
屏風の仕組みを知ってもらおうと、コーナーの一角にミニサイズの模型を展示。屏風の下貼りには、なんと明治や大正時代の登記簿や謡曲の譜面を3重に貼っているそうで、「子供が屏風に上っても破れないほど薄くて丈夫。これ以上のものはない」とのこと。昔は専門の業者から仕入れていましたが、今は手に入らないので、ストックしてある貴重な紙は上等の屏風にしか使わないそうです。縁木には秋田杉を使用しているといい、「完全に木がしまっていないと、裏貼りした紙がしわになってしまうので、100年以上経った、年輪が細かい木でないと使えない」と若林さん。日本の山林の豊かさと表具師の仕事は、切っても切り離せない関係にあります。

★若林さんの詳しい紹介はコチラ

只木 角太郎さん(洋服仕立て紳士・婦人)――生地の販売と無料型紙配布

日本でただひとり、紳士・婦人服どちらも仕立てることができる職人、只木さん。区民祭や市民祭ではいつも、無料で配布する型紙が大好評です。この日も、紳士物のスーツの生地を破格の値段で販売した上、購入したお客さんには用途や要望、体型に合わせてその場で型紙を起こして切り抜き、プレゼントしていました。
ある女性は、「以前も区民祭で型紙を作ってもらったけれど、サイズが変わってしまったので、またほしくてきました」と話し、ズボン用に生地を購入。また、以前から型紙のことを知っていて、「最近やっと裁縫をする時間がとれるようになったので」とスカートとズボンの生地を購入した女性は、「型紙がないと、いいものができないから」と只木さんの腕前に全幅の信頼を寄せている様子。只木さんは、「プロでも知らない人が多いけれど、ズボンなら、仮縫いの前のくせ取りの際、アイロンの掛け方でお尻が入るかどうか決まります」と話し、型紙を切り抜いた後、脇線と股下の生地の伸ばし方を丁寧に伝えていました。
お客さんの要望に合わせてその場でデザインしました
お客さんの要望に合わせてその場でデザインしました
通常は分業で行われるデザイン、パターン、縫製の全工程をひとりでこなしてしまう只木さんにかかれば、型紙作りも手際のよいもの。お客さんのサイズをさっと計ると、見事な手際でそれを型紙に起こしていきます。ハサミで切り抜くまで、ざっと30分程度。以前は一日で20枚配った日もあるそうです。ミモレ丈のスカートを希望したお客さんには、その場で、6枚の生地を縫い合わせたスカートをデザイン。「6枚張りの型紙は難しい」と言いながら、鮮やかな手並みで型紙を起こしていました。

「このへんを楽に作っておいたからね」と、お客さん一人ひとりの体型に合わせ、工夫を施す只木さん。くせ取りの説明後、「わからなかったら電話してください」と、どこまでも親切です。「上手にできました、と感激して電話をくださるお客様もいらっしゃいます。そうすると、僕もとてもうれしい」と話してくれました。只木さんは子供の頃から裁縫が好きな、ご自身いわく「変わった子供」で、自分の服を自分で縫ったりもしていたそうです。
左が竹の繊維で織った生地を使った紳士物ジャケット、右が打ち掛けをリフォームしたワンピースと上着(内に、黒のスパンコールのシースルードレス)
左が竹の繊維で織った生地を使った紳士物ジャケット、右が打ち掛けをリフォームしたワンピースと上着(内に、黒のスパンコールのシースルードレス)
デイリーユースはもちろん、オートクチュールまで、あらゆる洋服を仕立てる技術を持つ只木さんは、海外ファッションショーの経験も豊富です。コーナーの奥に展示した、竹の繊維で織った生地から仕立てた珍しい紳士物ジャケットや、博多人形をイメージし、打ち掛けをリフォームしたワンピースと上着(内に、黒のスパンコールのシースルードレス)は、海外のファッションショーで使用したもの。いずれも、洋服に夢や遊び心を追求する只木さんのセンスが光る作品です。

★只木さんの詳しい紹介はコチラ

好天も手伝ってか、例年にも増して賑わったマイスターのコーナー。メイン会場からは離れていたものの、その匠の技はやはり、多くの人を立ち止まらせる魅力にあふれていました。「かわさきマイスター」を初めて知ったという方も多かったようですが、これを機会に、その素晴らしい技術と人柄のファンになった方も大勢、いたことでしょう。