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かわさきマイスター活動レポート

かわさきマイスターに学ぶ「ものづくり体験教室」

浅水屋甫さんが高校生に広告看板製作の技術を披露

提供:川崎市
横浜市鶴見区の神奈川県立東部総合職業技術校(かなテクカレッジ)で11月26日(金)、12月10日(金)、12月17日(金)の3日間にわたり、「ものづくり体験教室」が開かれ、かわさきマイスターの浅水屋甫さん(広告看板製作)が高校生たちにその優れた腕前を披露しました。この教室は、かなテクカレッジが中学高校と連携してものづくりの普及と生徒たちの進路選択の支援をしようと、2年前からかわさきマイスターを招いて行っているもの。今回は神奈川県立鶴見総合高等学校の1年生がキャリア教育の授業として参加し、ものづくりの楽しさを体感しました。26日(金)の体験教室の様子をレポートします。

下書きなし、の匠の技に大歓声

高校生たちを前にお話しする浅水屋さん
高校生たちを前にお話しする浅水屋さん
当日は2クラス80人の生徒が参加。冒頭、浅水屋さんは「私はみなさんと同じ15歳で看板屋へ丁稚奉公へ入りました。細かいことが好きだったので親の勧めで入りましたが、毎日好きな道を続けているうちにいつの間にかものになり、人からほめていただけるようになりました。看板といっても、提灯や表彰状、あるいは煙突に字を書いたり、いろいろな仕事があります。今日はこういう仕事があるんだな、ということを納得していただければありがたいと思います。好きで選んだことを一生懸命やれば、自然と体が覚えて身に付いてきます。だから、みなさんも好きなことをあきらめず、一生懸命やってください。そうすれば必ず成功します」と挨拶しました。

その後、生徒たちはかなテクカレッジに開設されているコースのうち希望の10コースに別れてものづくりの技術を体験するとともに、順番に浅水屋さんの実演を見学しました。

「この文字でいいかな?」と確認
「この文字でいいかな?」と確認
浅水屋さんはコンピュータ主流の広告看板製作の世界であえて手描きにこだわり、あらゆる書体や絵を筆一本で描くことができる熟練職人です。地上数十メートルの石油タンクの壁面から電車の鉄橋まで、描く対象を選びません。そんな浅水屋さんが高校生に披露したのは、看板製作の基本である看板文字を描く技術。各グループが回ってくる度に、好きな漢字1文字と書体を選んでもらい、それを大判の紙に黒い塗料で描き上げていきました。
「すごい」「わあっ」という歓声が上がりました
「すごい」「わあっ」という歓声が上がりました
元気いっぱいの現代っ子たちも、浅水屋さんが下書きもせずに筆一本ですらすら文字を描いていく姿にびっくりした様子。筆の動きをじっと真剣に見つめる生徒や、見学しながら「すごい」「わあっ」といった嘆声を漏らす生徒など反応は様々でしたが、文字が描き上がると、みんな大きな拍手で感激を表していました。ある女生徒は足踏みしながら、「すごい」を連発。
全身を使わないと真っすぐな線が描けないそうです
全身を使わないと真っすぐな線が描けないそうです
浅水屋さんは生徒たちに、「看板文字なので、描き順は関係ありません。看板文字はただ“書く”のではなく、文字を作っていきます」「描くためには筆と体の両方を使います。筆は手だけですが、体を使わないといい字が描けません」と説明しました。描き終えると、後ろへ下がって字のバランスを確認し、必要に応じて手直ししていきます。マイスターの手に掛かると、画数の多い文字でもほんの5分程度でたちまち完成しました。
楷書体、草書体を依頼されると、浅水屋さんは骨格となる文字を一気呵成に描いてしまい、その上から肉付けして全体を整えていきます。これは、文字に勢いを与えるため。書体によって描き方も違うそうです。浅水屋さんが紙いっぱいに流れるように筆を走らせていくと、生徒たちから一際大きな歓声が上がりました。実は楷書体用の筆がなかったため、ゴシック体用の筆で描いたとのことですが、臨機応変、どんな筆でも使いこなしてしまうところは、さすがマイスターです。
「勘亭流? よしきた、今度は柔らかく描くからね」と浅水屋さん
「勘亭流? よしきた、今度は柔らかく描くからね」と浅水屋さん
流れるような筆さばきに見とれる生徒たち
流れるような筆さばきに見とれる生徒たち
楷書体の「空」。先に骨格となる文字を書いてから肉付けしていきます
楷書体の「空」。先に骨格となる文字を書いてから肉付けしていきます
躍動感のある「龍」が姿を現すと、生徒たちからどよめきが
躍動感のある「龍」が姿を現すと、生徒たちからどよめきが
「よし、遊んじゃおう」と描き始めたのはなんと落款印! 浅水屋さんはミリ単位で細い線を真っすぐに描く技術を持っています
「よし、遊んじゃおう」と描き始めたのはなんと落款印! 浅水屋さんはミリ単位で細い線を真っすぐに描く技術を持っています
生徒の質問に丁寧に応えます
生徒の質問に丁寧に応えます
マイスター直筆の文字をもらって大喜びの生徒
マイスター直筆の文字をもらって大喜びの生徒
描いた文字はドライヤーで乾かしてから、生徒たちにプレゼントされました。立派な文字を渡された生徒たちはどの子も満面の笑顔。いただく時にはみんな、きちんと「ありがとうございます!」とお礼を言っていたのが、印象的でした。


調色もこの通り!
調色もこの通り!
文字を描く合間に、色と色を合わせて別の色を作る調色の技術も披露しました。浅水屋さんが「黄色と青を混ぜるとどうなるかな?」と問いかけると、生徒たちは「緑!」と元気良く解答。「はい、正解。やってみましょう」と浅水屋さんは早速、白い紙の上で色を合わせていきます。

浅水屋さんはただ文字を描くだけでなく、生徒たちにきさくに話しかけます。マイスターが「15歳の時から看板職人をやっているんだよ」と言うと、「私たち16だよ、すごいなあ」と生徒たち。「おじさんは今、75歳」との声に、さらに大きな驚きの声が上がりました。
この日、浅水屋さんは作業風景や作品を撮影した写真を持ってきて生徒たちに見せてくれました。ビルの壁面など思いがけない作業現場に、男子生徒は特に関心を抱いていた様子です。
数百本の筆を書体や塗料に応じて使い分けているそうです
数百本の筆を書体や塗料に応じて使い分けているそうです
本日の筆の数々。細い字を描くための筆(左端)はイタチの産毛を使った高級品。柔らかく弾力があります。筆は書道のそれと違って根元まで全部おろして使い、力加減で文字の太さを描き分けます。使用後は一回ごとにシンナー、洗剤、シャンプー&リンス(!)で洗うそう。「筆が違うと仕事が違ってくる」と浅水屋さん。大切に使えば、何十年ももつといいます。

教室終了後、浅水屋さんは「みなさんはちょうど私の孫みたいな生徒さんたち。私も15歳で今の仕事に入ったので、懐かしいなと思いました。みなさんは今が一番大事な時です。私はこの仕事を続けてきて本当に良かったと思っていますが、みなさんも好きなことを頑張ってください」と締めくくりました。

生徒さんに聞きました

Sさん…文字がきれいです。下書きなしで描けるなんてすごい。
Aさん…授業で書道を習っていますが、流れるような文字がすごい。判子の線も真っすぐなので驚きました。
Hくん…二度書きしているところが書道と違う。最後にかっこよく仕上がるようにぜんぶ計算されているなと思いました。15歳の時に仕事を始めたなんて想像もつかない。
Fさん…浅水屋さんの文字は癖がなくてかっこいい。15歳からなんて考えられないです。
Wさん…看板文字は印刷すると思っていたので、手描きだとは知りませんでした。(アルバム写真をみて)どの文字を書いても、全部、形や大きさ、書体を揃えて描けるところがすごい。

元気いっぱいの生徒たちが、浅水屋さんが文字を描く姿を前にすると、真剣な顔つきになって見入っていた様子が印象的でした。どんな言葉で説明されるより、マイスターの技量が大きな説得力を持っている証です。感動する力を持った生徒たちと感動させる力を持ったマイスターの出会いが、きっと将来実を結ぶに違いないと確信した体験教室でした。
■神奈川県立東部総合職業技術校(愛称 かなテクカレッジ)

住所: 横浜市鶴見区寛政町28番2号
電話番号: 045-504-2800
URL: http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/06/1467/index.html