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かわさきマイスター活動レポート

かわさきマイスター友の会で講演会を開催

「技術と技能で生きる中小企業―ものづくりは人づくり―」

提供:川崎市

「かわさきマイスター」選考委員長の鵜飼信一さんを講師に迎えての講演会

「川崎市産業振興会館」で行われた講演会の様子
「川崎市産業振興会館」で行われた講演会の様子
平成23年11月11日(金)川崎市産業振興会館にて、かわさきマイスター友の会の全体会が開かれ、その中で、かわさきマイスター選考委員長・鵜飼信一さんを講師に迎えての「かわさきマイスター講演会」が開催されました。

「技能と技術で生きる中小企業」をテーマにした講演会は、長年にわたり、かわさきマイスター選考委員として選考副委員長や選考委員長を歴任した鵜飼さんが、今期で委員長を退任することを受け、開催の運びとなりました。かわさきマイスターの選考に際しては、マイスター候補者にインタビューを行い、熟練した技能をヒアリングするなど、情熱を注いでこられた鵜飼さん。講演会では、ご自身も東京の町工場で生まれ、日本における中小企業のものづくりの現場が今後どのように変化し、経済的発展を遂げていくべきかの研究を続けてこられた鵜飼さんが、様々な町工場の現場を回ってのエピソードやその際に感じたことなどを写真とともにお話してくださいました。
鵜飼信一(うかい しんいち)氏<br><br>
鵜飼信一(うかい しんいち)氏

■講師プロフィール

鵜飼信一(うかい しんいち)氏

早稲田大学商学部、早稲田大学大学院商学部研究科博士課程修了後、株式会社社会工学研究所、株式会社三菱総合研究所研究員を経て、現在は早稲田大学商学学術院教授。専門は中小企業論、経済統計。中小企業の現場に実際に何度も足を運び、実態を視察、中小企業として成功する製造業の秘訣やその活性化の方策等について研究を行う。多角的な分析には定評があり、「現代日本の製造業」をはじめ、さまざまな著書や論文に発表をしている。川崎市ものづくり振興協議会会長、川崎市かわさきマイスター選考委員長を歴任。東京都生まれ。

身につけたもので生きる…身体化された技術とは?

東日本大震災で被災した中小企業の現状について説明
東日本大震災で被災した中小企業の現状について説明
実際に町工場に出かけ、そこで働く人々に直接お話を伺い、日本における中小企業の実情を調査している鵜飼さんは、まず最初に今年3月11日に起きた東日本大震災の被災地・釜石市の三陸ワカメの加工をする加工機をつくる釜石の工場の写真を披露し「震災前からつきあいのあるこの工場と連絡がとれたのは、5月に入ってから。津波の被害でパソコンや保存データなどは失い、甚大な被害を受けたがそこで働く人たちの“大切なことは頭に全部入っているから大丈夫”という言葉が印象的だった。これこそが、身体化された知識が個人の身体に入っているという証。三陸は今、全ての場所で大変な状況になっているが、腕に身につけたものがあるというのはとても強い。今後は水産業→加工業→機械産業の順で復活を遂げていくことと思う」と被災地への想いを語りました。
また、墨田区で2000年から追跡調査を行っている町工場の事例も紹介。「墨田区でご主人が一人でプレス加工と蹴飛ばしパワープレスを使って、部品を2つだけ製造している工場がある。2000年の当時、ご主人は76歳。その後、毎年決まった日の決まった時間に伺って写真を撮影し、話しを伺った。この方は昨年2010年に86歳で引退され、今は仕事を離れて元気にしているそうですが、追跡している10年以上の間、作っている部品は同じだった。その部品は、ここにいらっしゃるマイスターの皆さんとは違い、決してチャンピオンクラスの技能を必要とするものではないが、町工場のほとんどでは、こうした誰にも出来そうで、でもできないものを作っているのが現状。そして、その仕事を通して身につけたもので生きている人々が圧倒的に多い」と話し「70歳台の現役は町工場では当たり前。皆さんもまだまだ、がんばってください!」と、マイスター達に笑顔でエールを送る一幕もありました。
「わり屋」の作業工程について解説
「わり屋」の作業工程について解説
その他にも、25トンのアンカーを壊す「わり屋」と呼ばれる職人の仕事や、新潟県燕市の洋食器専用のバフ屋、墨田区で国内シェア8割を占める歯科用ピンセットを作る工場、台東区の伝統工芸の現場など数々の事例を紹介し、そこで働く人々がいかに身体に技能を浸透させ、仕事の中に生きているか、「生業」としての中小企業について語ると、講演会に出席したマイスター達は熱心に耳を傾けていました。

“ものづくり”を活性化していくために

難しい話だけではなく、時折はさむ軽妙なユーモアにマイスター達もつい笑顔に
難しい話だけではなく、時折はさむ軽妙なユーモアにマイスター達もつい笑顔に
聴き応えある講演に、熱心に耳を傾けるマイスターの皆さん
聴き応えある講演に、熱心に耳を傾けるマイスターの皆さん
講演の中では“ものづくり”の出発点についても触れ、「親子ものづくり教室などを開催してその様子を見ているとよくわかるのですが、初めてのこぎりや金槌を使う子どもさんは、なかなか上手に道具を使いこなせない。でも道具を使っているときの集中力はものすごい。これが“ものづくり”の出発点ではないかと考えています。つまり、人間は道具を持ち、道具を使うと脳の集中力が高まり、脳と道具が一体化する。その際に、よいフォームを教えることでさらに集中力が持続するようになり、これによって熟練の技能が身についていく。この裏づけとして、様々な現場を視察していく中で気づいたのは、熟練と呼ばれる職人さんほど、技と身体が対応し、姿勢が良いということ。細かい作業をする職人さんは胡坐をかいて作業をする方が多いのですが、その胡坐をした際にひざの外側がぴたっと板についたままで作業している人ほど長年その作業をされている熟練者でした。まさに“板につく”という言葉どおりでした(笑)」…と、技能が身体に身についていくプロセスについてもわかりやすく語ってくださいました。
熟練した職人さんほどひざの外側が「板につく」を写真で披露
熟練した職人さんほどひざの外側が「板につく」を写真で披露
また、今後“ものづくり”を活性化していく方策として「工芸」に着目すべきとも提言。「工芸とは、つまり多品種少量で、ものづくりのための道具を作ることから始まる。そこには作る喜びがある。そんな“ものづくり”をすることが付加価値の高いものを作ることになり、それがひいては産業の活性化につながるのではないかと思っている」と意見を述べました。
講演会の最後に「私は色々な場で“ものづくり”について話す機会があるたびに言っている言葉があります。それは、かわさきマイスターの浅水屋甫さんと以前、お話させて頂いたときにおっしゃっていた“こういう仕事はいい。手からお金が出てくる”という言葉です。これは“ものづくり”の原動力であり、ものを作る喜びもとても言い表しているなと思います。皆さんも、そんなものづくりを80歳になっても90歳になっても生涯現役でやっていただきたい。ありがとうございました」と話し、マイスター達からの大きな拍手を受け、無事に講演会は終了しました。

老いても現役で仕事をする人々や、身体にしみこんだ技能を“身体化された知識”として日々の仕事に従事する人々の事例を数多く紹介しながら「身体化された知識」についての理解を深めた今回の講演会。鵜飼さんの講演に耳を傾けていた「熟練した技能=身体化された知識」を持つかわさきマイスター達も、それぞれ「素晴らしい講演だった」と感想を述べ、皆さん充実した時間を過ごされたようでした。