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かわさきマイスター活動レポート

「2010てくのまつり」 取材レポート

13人の「かわさきマイスター」が匠の技を披露

広告看板製作 浅水屋 甫(あさみずや はじめ)マイスター

広告看板の展示および手書き表札実演販売

浅水屋さんはコンピューター全盛の中、筆一本であらゆる字体を描いていく看板製作の熟練者です。
浅水屋さんはコンピューター全盛の中、筆一本であらゆる字体を描いていく看板製作の熟練者です。
60年近くにわたって広告看板製作を手がける浅水屋甫さんのコーナーは、朝から大賑わいでした。お目当ては、手書き表札の実演販売で、表札や名札を書いてもらいたいという人が並んだからです。中には3月のひな祭りを控え「初節句のお祝いに、ひな壇に飾ります」と、お孫さんの名前と誕生日の日付を書いてもらう人もいました。浅水屋さんはてきぱきと注文を受け付け、イベント開催中、名前書きに大忙しでした。
浅水屋さんは、コンピューター全盛の中、筆一本であらゆる字体を描いていく看板製作の熟練者です。小さい看板から石油プラントのタンクの壁面画、店舗の看板、ポスターなどを手作業で製作していきます。文字通り、「匠」という言葉が似合う貴重な技能を保持しています。
看板書きの名人・浅水屋さんのコーナーには名札を書いてもらう人が殺到して大忙しした。
看板書きの名人・浅水屋さんのコーナーには名札を書いてもらう人が殺到して大忙しした。
小さい頃から絵を描いたり、文字を書くのに興味があったといいます。中学を卒業してすぐ入ったのも、看板店でした。もともと好きな道だったこともあり、修業を重ねめきめきと腕を上げていきました。細かい文字までもがデジタルで描くことができる時代ですが、表札をはじめ車体の広告文字など、さまざまなもので手書きの味を好む人も多いといいます。とくにお寿司屋さんや蕎麦屋さんなどのメニューは温か味が感じられる手描き文字のほうが好まれるとのことです。
イベントが終わりかける頃、もう一度浅水屋さんのコーナーを訪れると、まだ名札づくりに取り組んでいました。1枚を書き上げるのに約8分、ドライヤーで文字を乾燥させクリア処理をかけ、前後15分くらいで完成します。スピードの速さも浅水屋さんの匠たる由縁です。最近はコンクリート壁の玄関が多いため、両面テープを裏に貼ってあげるというサービス精神も発揮していました。最後に「これからも、こうしたイベントには積極的に参加してアピールしたい」と意欲的でした。

刃物研ぎ・鋸目立て 石井 一夫(いしい かずお)マイスター

はさみ・包丁等の刃物研ぎの実演(先着15名)

「包丁には研ぎ方のルールがあります」と説明する石井さん。
「包丁には研ぎ方のルールがあります」と説明する石井さん。
石井一夫さんのコーナーも朝から賑わっていました。有料ですが、包丁を研いでもらおうという人が大勢訪れてきたからです。石井さんは自宅で刃物店を経営し、家庭刃物はもとより、大工、建具、調理、植木、洋服仕立てなど各種の技能者が使う刃物やはさみを、手作業や水研機を使って研ぎ、見事な切れ味を蘇らせる腕前はプロの職人から高く評価されています。もともと鋸の切刃をよくする「目立て」が専門でしたが、いまは「研ぎ」のほうが多いということです。この日も、家庭用包丁などの研ぎを中心に実演することにしたのは、石井さんなりの考えがあったからです。
来場者から依頼された包丁を研ぐ石井さん。
来場者から依頼された包丁を研ぐ石井さん。
「自分で研いでいる人もいますが、自己流の研ぎ方をしていて、拝見するとナタのようになっている包丁があります。研ぎ方にはそれなりのルールがあって、それをここで教えてあげたいのです」。包丁は種類によって用途が違うので、研ぎ方も変わります。例えば、出刃包丁は固いものを切りますから、研ぐ角度を変えて二段刃(鋭角の刃先)を強く研ぐことで、刃こぼれしないようになるといった具合です。使い方を知らない人もいるそうです。「出刃包丁の先のところで硬い骨を切っている。何のために二段刃が強くなっているのか知らないのです」と、使い方までアドバイスする石井さんです。
自分で研いだ包丁を持ってくる人は、研ぐことに意欲を持っているからで、石井さんによるとそういう人はアドバイスすると上達も早いということです。会場でも「なるほど」とうなづきながら、納得して帰る主婦も見られました。変な研ぎ方をした包丁は、研ぎ直すのに時間がかかるそうです。石井さんはイベント終了間近まで来場者から預かった包丁を研いでいましたが、きょうは、そういう包丁が多かったのかもしれません。

手描友禅 石渡 弘信 (いしわた ひろのぶ)マイスター

手描友禅体験

子どもたちに「自由な発想で好きなように描こう」と指導する石渡さん。
子どもたちに「自由な発想で好きなように描こう」と指導する石渡さん。
手描友禅作家・石渡弘信さんは、かわさきマイスターの初年度(平成9年度)認定者です。経産省認定の伝統工芸士にも登録されています。石渡さんは学校訪問やイベントなどを通じ、子どもたちに下絵作成の指導もしています。この日も、たくさんの子どもたちが、あらかじめ描かれた図案に色付けしていく作業を目を細めながら見守っていました。指導にあたっては、図案の枠からはみだしても気にさせず、色も自由に使わせて描かせているとのことでした。「それぞれが好きなようにして色付けしたほうが、個性的で人を引き付けるものができあがる」という考えです。実際この日、下絵とは全然違った絵柄になってしまった作品も多く、石渡さん自身が驚いているほどでした。枠にとらわれない子どもたちの感性がそのまま飛び出したようです。
後継者の息子さんも熱心に子どもたちにアドバイスしていました。
後継者の息子さんも熱心に子どもたちにアドバイスしていました。
手描友禅は江戸時代から伝わる友禅染め本来の技法で、型紙を用いずに下絵から色挿し、仕上げまでの工程を手描きによって染付けします。洗練された都会的なセンスの模様と配色は多くの人に愛好され、芸術的にも高い評価を得ています。石渡さんは、優れた友禅染めの技法と日本画の表現方法で、日本の自然の美しさ・豊かさを、素材である生地の特性を生かしながら深みのある色合いで染め上げ、着物などに潤いと品格を醸し出す技能の持ち主です。特に、紺色の微妙な濃淡や、金箔押しの微細さは素晴らしく、高く評価されています。石渡さんがとりわけ重視するのが、昔から伝えられる花鳥風月の特性をきちんと表現することだそうです。「そうすることで、日本の伝統文化である友禅を伝えることができます」。その上に、石渡さんは「伝統の枠の中で、さらに自分なりの独自性を創り上げていきたい」と語っていました。

造園士 井上 衛(いのうえ まもる)マイスター

竹垣およびシュロ縄結び実演

造園士の井上さんは竹垣のミニチュアを展示して、日本の風情を伝えていました。
造園士の井上さんは竹垣のミニチュアを展示して、日本の風情を伝えていました。
50年以上、造園業を営んできた井上衛さんは、庭園の基本設計図から樹種の選定、植生の配置、石組み、霜よけ作業などに至る庭造りのすべてにわたり対応できる数少ない造園士の一人です。特に近年は省エネや地球温暖化に伴うエコ対策に関わる植生配置にも留意し、実績を挙げています。この日は、竹垣の結び方とシュロ縄結びの実演をしました。会場に持ち込まれたミニチュアサイズの竹垣には、霜よけに使う棕櫚(しゅろ)縄を撚って作った松竹梅が結ばれ、いかにも日本的な風情を醸し出していました。ただ、町中に竹垣のある光景は日本人なら誰でも郷愁を覚える原風景ですが、井上さんによると残念ながら竹垣づくりそのものの注文は減ってきているということです。それでもあえてこうしたイベントに出品するのは「日本の伝統を残し、その良さを多くの人たちに知ってもらいたい」という一念からということでした。それがまた、マイスターとしての大きな責務ではないかとも付け加えていました。
こうした竹垣も、今では町なかで見かけることが少なくなりました。
こうした竹垣も、今では町なかで見かけることが少なくなりました。
四季折々の自然を最大限に生かした日本の造園は、世界に類を見ない芸術性の高い独自の要素を備えています。井上さんは、その技術を基礎から高度の応用編まで幅広く、かつ奥深く修得するとともに、その技術を表現し教育する能力も兼ね備えています。前述の通り、実際のオーダーは少ないけれども、伝統ということで次世代に伝えていきたいと井上さんは重ねて言及していました。造園1級技能士として、これまで造園技能検定委員、造園検定主席検定委員、神奈川県および川崎市のシルバー人材センター緑樹講習講師なども務めてきました。また市内中学校で毎年開催される「技能職者に学ぶ」学習にも参画してきました。また、自宅には造園実習用の場があり、技能検定のための実習なども行われているということです。