ZOOM UP:かわさきの元気企業
業種や公民、産学の垣根をこえて川崎を元気に!
2013/06/28
まるで武士のように、串を構えた姿がりりしい「らくさし君」。彼は、中原区にあるヒロキ産業株式会社のイチオシ商品「らくさし君」のイメージキャラクターです。ヒロキ産業さんのホームページで見られる、PR動画で大活躍しています。
桝田基弘社長と「らくさし君」がプリントされたTシャツ。
「らくさし君」は、川崎市の「ものづくりブランド」に認定された自動串刺し機です。
現社長のお父様、先代の社長がこの会社を立ち上げた時は日本の高度成長期、製造業がいちばん元気だった時代です。そして、工業部品、工業製品の生産の場がどんどん海外に移管されている現代、どうやって生き抜こうか?と考える中で生まれたのがこの「らくさし君」だそうです。
工業部品からどうやって自動串刺し機のアイデアが? ヒロキ産業の桝田基弘社長にお話をうかがいました。
「らくさし君」のアイデアはどこから生まれたのですか。
きっかけは、飲食店のオーナーとして独立するために、修行していた友人との会話でした。友人が「こうして簡単に焼きとり食べているけど、肉を串に刺すのは大変なんだぞ」という話を始めたのです。確かに食べてはいるけど、自分で作ったことはないなあ、と思いながら聞いていますと、何度も何度も「大変だ」と言うので印象に残りました。
そんなに大変なら、焼き鳥用串刺し機があるか、機械化することが考えられるじゃないか、と調べてみました。すると、大型工場といいますか、大量生産向けの機械はありますが、小さな焼きとり屋さんや、お肉屋さんといった店舗の中で使えるような、ちょうどいい機械はなかったんですね。そこで、ポータブル、卓上型のものに特化して作ったら喜ばれるんじゃないかと思った、それがこの「らくさし君」につながっています。
開発にはどれくらいかかったのでしょうか。
力も、時間もかけずに串刺しができあがり!
実は、串を肉にまっすぐ刺すのが難しいんです。前からあった(他社の)機械をみても、そこが解決されていないところで。我が社でも苦労しました。機械としてはできていて、販売もしていたのですが、まっすぐ刺すことについては3年くらいかかりました。
その間、従来型のものでも満足してくださるお客さん、モニター的に使ってもらえるお客さん、企業さんがいらっしゃいましたので、みなさんから「もうちょっとこうなったらな」という意見をお聞きしながら試行錯誤しました。いろんなお店に協力してもらい、肉の種類、材料によっていろんな意見をもらいましたね。
材料が違うと、刺し方も違うのですか。
違います。なので、らくさし君は半オーダーメイドです。スタートは焼きとりですが、とり肉にもいろいろな部位があるし、串モノは他にもイカ、牛肉、豚肉、うなぎなどいろいろあります。依頼がありましてマシュマロやキュウリの一本漬けを刺したこともあり、今では大変な好評をいただいてます。
らくさし君は直接ユーザーに販売をしているのですか。
社内に実演用の部屋があり、いつでも見学できます。
商社さんや代理店さんと提携すれば、より販売力をつけることはできると思います。ただ、らくさし君は慣れるまでのコツやツボがありまして、これを理解してくれないと一緒にやることはできません。一つの機械・一つの規格を作って「はい、これを売りましょう」ということではないんです。
うちの会社としては、お客さんが描いていたイメージとの溝を埋める作業ができないと困ってしまう。「こういう説明だったけど違うじゃない」となりますからね。
今は、できるだけ直販でいろんなケースを勉強しながら、お客さんへの対応や、反応を確認しながら販売したいと思っています。
同じような気持ち・考え方を持ってくれる提携先があれば、ぜひ一緒にやっていきたいです。
さまざまなニーズに合わせて作られた部品たち。
よく見ると「ましゅまろ」…?!
今までは電話やメール、紙媒体での紹介・説明が多かったのですが、今は実演している様子をビデオに撮って、見て頂くようにしています。すると、もし実際に使ってみてうまくいかなかった、というとき、「できないじゃないか!」ではなく「ウチではなぜできないんだろう。アドバイスしてくれる?」という流れができました。
さらに社内に実演ルームを作りました。こちらに来ていただけるお客様には、そこで実際に機械に触って実感してもらい、機械の部位や形状について、実際のものを見ながらご説明させていただきます。また機械を見ることで、僕らが何も言わなくても使い方を考えられるんですね。「こう使ったら、こう配置したら作業効率がいいねえ」といったアイデアがその場で出てくることもあります。
YouTubeには、いろんな種類の肉を刺す映像がありますね。
あの映像は、いかにも「企業」という雰囲気だと面白味がないので、従業員に「好きなようにやりなよ」と言って作ってもらいました。そうしたら「らくさしレース!何本させるかやりまーす」なんて楽しんでいますね。
「らくさし君」が出てくるPR動画は、川崎市さんが中心になって、クリエイターさんや日本工学院専門学校さんにご協力いただいてできたものです。今度はらくさし君が「らくさしソング」を歌うPVを作る話を進めていますよ。
「らくさしソング」は、川崎在住のミュージシャン、エスペランサさんが作ってくださいました。知り合ったのは武蔵新城の駅近くにある飲食店のマスターの紹介です。マスターがエスペランサさんに、らくさし君のことを「面白いものがあるよ」って話してくれて。それで、お店に持って行ってお見せしたら気に入って下さって「らくさしソング」が生まれたんです。それだけじゃなく、エスペランサさんがFMかわさきでやっているコーナーで、30分のうち20分「らくさし君」の話をしてくださいました。それも3週連続で!
それがご縁で、イベントとかいろんなところにご一緒するようになったんですよ。で、その度にどこでも「らくさしソング」が流れる、というわけです。
今は特に「らくさし君」の営業をしていませんが、導入した先のご紹介だとか、インターネットを見て連絡してくる人もいて、さらに動画を楽しんで作ってくれる人、歌を作ってくれる人…こんな風に「らくさし君」を中心につながる仲間、「らくさしファミリー」みたいになっていますね。
「らくさし君」以外に、リサイクル建材を使った独立開業支援もされているようですが。
それも、工務店をやっている友達から相談されたことがきっかけでした。「住宅展示場の展示品(アウトレットのキッチンとか建材)を安く買えるルートがある、でも自分では保管する場所もないし、どうやって展開すればいいと思う?」と。そのときたまたま、整理して倉庫的につかっていた工場がありまして、そこを職人仲間できれいにしてショウルームにしました。
ちょうど「らくさし君」が売れ始めた時期でもあり、自分で焼きとり店を始めたい、でも内装も設備もこれから、というお客さんがいました。そこで「実はこういうことも引き受けられるんですよ」と持ちかけると「じゃあ相談にのってください」ってなりまして。
こうなれば、銀行員や金融からコンサルティング業をしている知人も巻き込んで、「開業支援」って形でホームページに載せよう、ということになったんですよ。だからいろいろとホームページには載せていますけど、ウチの会社だけでやっているわけではありません。いろんな仲間と一緒だからできることです。
今、ホームページは「いろんなことやっている会社」って雰囲気になっているので、もっと「つながり」が分かるようにリニューアルしたいです。
業種や公共・民間、産学の垣根をこえた「つながり」がどんどんできていきますね。
そうなんです。今後は、おそば屋さんとかでそば打ちしているところが見られるお店があるでしょ、あんな風に「らくさし君」で仕込んでいるところをガラス張りで見られるような店ができないかな、と思っています。でも、お店を改装するのもすぐには難しいので、工場のデモ用の部屋を持ち帰りの焼きとり屋にすればいいのかな、なんてことを、今年のテーマとして考えています。
できれば川崎駅周辺、市役所や商工会議所の近くで、安く飲み食いできる、立ち飲みの焼きとり屋や居酒屋を開いて、「ここが、ものづくりブランドの『らくさし君』のお店だよ」って言ってもらえるといいですね。ここからは僕の勝手な思い込みなんですが「かわさきブランドのお店」を作りたい。食器、ビール、野菜、醤油…店で扱っているものがオールかわさきブランドのお店。いろんな企業や人が集まって、川崎をどんどん活性化して、盛り上げていきたいです。そして、そんな中で「らくさし君」って聞いたら「ああ知ってる、あそこで使ってるよね」って言われるようになりたいですね。
会社正面の貼り紙。まさに「元気企業」です。
「相談されて」「気が合って」「ご縁」「友達」「仲間」…インタビューの間で、こういった「人とのつながり」を感じられる言葉をたくさんお聞きしました。そして「らくさし君」とこれからの展望について、実に楽しそうにお話しくださり、聞いているこちらもワクワクしてきました。とても明るい社長のお人柄に、みんな引き寄せられるのでしょうね。
「らくさしのお店」、「かわさきブランドのお店」、とっても楽しみです。